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過去のオピニオン・エッセイ

オピニオン

「事情磨錬(じじょう まれん)」能勢伸之氏 フジテレビジョン報道局上席解説担当役兼LIVE NEWS it日曜 「日曜安全保障」MC」
2024-04-01
防衛協会会報第166号(6.4.1)掲載
 ロシアが、ウクライナへの“特別軍事作戦”という
名の戦争を仕掛けてから、すでに2年が過ぎた。

 現在も進行中のこの戦いの映像を見ていると、以前には無かったような戦い方が浮かび上がってくる。

 まず、UAV(無人機)だが、開戦直後から、ウクライナ軍が使用し、有名だった、トルコ製のバイラクタルTB―2は、偵察、監視、観測だけでなく、小型のレーザー誘導爆弾、MAM等を精確に投下するという性能を発揮。ロシア側戦車を中心とする車輛を撃破してみせた。これに対して、ロシア軍は、T―72B3やT―90などの戦車の砲塔の上に、日傘のような装甲を展張するようになった。UAVから投下される誘導爆弾がロシア軍戦車の本体にぶつかって破壊するのを妨害するためである。

 似たような外観の装甲は、ガザ地域周辺やガザに突入したイスラエル軍戦車でも見られるようになった。ガザを支配するハマスは、RPG対戦車擲弾発射機や対戦車ミサイルでイスラエル軍装甲戦闘車輛を狙うため、イスラエル軍は、メルカバMK.4M戦車、ナメル重装甲兵員輸送車用にトロフィー防護システム(APS)を開発、装着している。これは、砲塔、または、車体の四方向に小型のレーダーを取り付け、RPG弾の接近を感知する

と、その方向に向かって、弾幕を張り、RPG弾や対戦車ミサイルを破壊するというもの。

 米国やドイツ、英国も今後、自国戦車用に導入する見通しだが、トロフィーAPSのレーダーが、砲塔の直上をカバーしていなかったためか、メルカバMK.4M戦車やメルカバMK.3、それにナメル重装甲兵員輸送車や、D9R装甲ブルドーザーの上にも、ロシア軍戦車の砲塔上にある“日傘装甲”に似た装甲が取り付けられるようになった。イスラエル軍装甲戦闘車量に取り付けられる装甲は“鳥籠装甲”と呼ぶ。

 実際の戦場で、戦車・装甲車輛を運用しているロシア、イスラエル両軍が、上面に奇妙な形状の装甲を施すことになったことの影響は大きいとみられたが、今年に入り、ウクライナ軍が公開した映像の中には、ロシア軍の“日傘装甲”付戦車の日傘装甲と砲塔の間にウクライナ軍のドローンが飛び込み、次の瞬間、そのロシア戦車の砲塔が吹き飛ぶ、というものがあった。このドローンは、FPV自爆ドローンであったとみられる。FPVドローンは、ドローンのカメラから送付されてくる映像で操縦するドローンで、“日傘装甲”を掻い潜り、恐らくは、当時、開いていたと考えられる砲塔ハッチから車内に飛び込み、自爆したのではないだろうか。

 ロシア軍のT―72、T―80、T―90戦車は、主砲弾の自動装填装置の構造上、砲塔の下に主砲弾と薬莢が円形に並んでいる。そこが爆破されれば、一気に誘爆して、重い砲塔も吹き飛んでしまう、ということなのだろう。

 このケースで、ウクライナ軍は、ウクライナ軍のFPVドローンとドローン操縦士の優秀さを誇示したかったのだろうが、いずれにせよ“日傘装甲”の問題点も浮き上がらせてしまったということかもしれない。

 とはいえ、2024年時点での戦況では、ウクライナ軍が、FPVドローンに過度に依存する問題点もしてきされている。ウクライナでは、企業だけでなく、一般市民が、家庭でドローンを組み立て、軍に納入することも行われていることもあり、「ウクライナ軍はたしかに小型ドローンは月に何万機と入手できる。とはいえ、FPVドローンは爆薬を500gほどしか搭載できず、射程もせいぜい3km強だ。それに対して、155mm砲弾は約11kgの爆薬が詰め込まれ、射程は少なくとも24kmにおよぶ」(米Forbes 2024/2 /9付)というのである。従って、ウクライナ軍にとって、西側諸国、特に米国の弾薬援助が細っては、戦いの継続にも問題が出てくるというのだろう。

 その一方で、トルコのドローン・メーカー、バイラクタル社は、キーウ近郊にTB―2や新型のTB―3を年間計120機生産する工場を1年以内に建築する計画だ(ロイター通信、2024/2/7)。

 ウクライナ軍が使用しているFPVドローンと異なり、TB―2は、最大荷債重量150㎏、27時間連続飛行も可能だ。

 ウクライナ軍のドローンは、無人航空機だけではない。

 ウクライナ海軍は、2月1日未明、クリミア半島の西側でロシア海軍のタランタルⅢ級ミサイル・コルベット「イワノベツ」にウクライナ国産で、爆薬を積んだ水上ドローン「マグラⅤ5」×6隻以上を次々に突っ込ませ、イワノベツを爆発させ、沈没させた。

マグラⅤ5は、約300㎏の爆薬を搭載し、衛星、慣性、光学等、さまざまなナビゲーション・ システムを駆使して、航続距離800㎞、80時間も航行可能。最大速度は時速78㎞で標的に突入する。「ロシア海軍のミサイル・コルベット『イワノベツ』の乗組員たちは1日未明、複数の水上ドローンが自艦に向かってくるのを視認した。機関銃や艦砲で射撃したが、命中しなかった」(米Forbes 2024/2/1付)との見立てもあった。これが正しいとすれば、マグラⅤ5は、全長5.5mだが、海面上に出ている部分が小さく、銃撃、砲撃は難しかったということかもしれない。

 いずれにせよ、全長56m、全幅10m余りで、最高速度:時速75㎞と小ぶりながら、高速のミサイル艇をウクライナの水上ドローンが撃沈した意義は大きい。「ウクライナ軍は黒海艦隊の5分の1を破壊し、残りも東に駆逐したことで、黒海西部と、そこを南北に貫く極めて重要な穀物回廊を支配するようになった」

(米Forbes 2024/2/1付)というのである。そして、ウクライナ軍のドローンが、ある種の成功を勝ち得ているのは、世界の他のエリアにも影響をもたらしそうだ。「ウクライナ軍による海上攻撃は、数千機の使い捨て商用ドローンを敵編隊に対して兵器化し、誘導魚雷の圧倒的な斉射のように機能する大量のUSV(水上ドローン)で黒海の敵艦を標的にするのに威力を示した。中国による台湾侵攻には、水陸両用侵攻部隊を、海峡を越えて輸送する必要がある。この輸送により、軍隊が港で積み込まれてから台湾の海岸に沿って下船しようとするまで、数十、場合によっては数百の大型船舶がドローン攻撃にさらされることになる。現代の海軍艦艇には、ドローン、魚雷、対艦ミサイルによる限られた数の攻撃を阻止するためのさまざまな防御手段が装備されている。しかし、(インド太平洋軍で検討している)ヘルスケープ(地獄絵図)構想のコンセプトは、数十、数百の同時ドローン攻撃でそれらの対策を圧倒する方法を提案している」(米Aviation Week 2023/9/26付)というのであり、その為には、動力がない、または、ほとんど使用しないヨット型ドローンというのも含まれるようだ。ウクライナの戦訓は、東アジア情勢にも影響するということかもしれない。




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