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過去のオピニオン・エッセイ

エッセイ

 ありがとう!74式戦車 退役を惜しみ「脱魂式」の全国行脚へ 軍事フォトジャーナリスト 菊池雅之
2024-01-01
                          防衛協会会報第165号(6.1.1)掲載
 突然ですが、私は1975年2月生まれです。早生まれなので、学び舎で机を並べた同級生たちは1974年生まれの方々がほとんどとなります。

 私にとって、令和5年度は複雑な気持ちで迎えた年となりました。それというのもまさに同級生となる74式戦車が完全に引退してしまうからです。装備品を擬人化して見るのは子供じみていると笑われるかもしれませんが、やはりそう思わざるを得ません。しかも、陸自としては戦車を削減していく考えにあり、74式戦車の引退とともに、ほとんどの戦車部隊が廃止になっております。その代わりに、16式機動戦闘車を主たる装備とした新たな部隊が全国で続々と編成完結し世代交代を果たしています。その状況はまるで私にも「そろそろ若い人に追い抜かれるよ」と言われているような気がしてなりません。

 今年度、残っている74式戦車配備部隊は、第9戦車大隊、第10戦車大隊、第13戦車中隊のみです。いずれも部隊ごと消滅してしまいます。実戦部隊の74式戦車がいなくなれば、富士学校で教育に当たる機甲教導連隊からも当然74式戦車も引退します。そこで今年は、74式戦車とお別れをする年と目標を打ち立てました。

 2023年3月。最初のお別れとなったのは、第2戦車連隊と第3戦車大隊の74式戦車でした。3月5日、道北の地を守ってくれた第2戦車連隊のホームベースである上富良野駐屯地へと向かいました。

 深い雪に覆われ、春の気配は全くありません。まだまだ冬の延長戦にあるこの場所を訪れたのは、74式戦車の「脱魂式」という聞きなれない式典を取材するためでした。戦車は、新たに部隊に配備された際、魂を吹き込むという意味で、「入魂式」を執り行います。部隊指揮官や隊員の代表らが、配備1号となる戦車の砲塔に描かれた部隊マークに交互に筆を入れていき、絵柄を完成させることで、魂を宿すというものです。

 今回行われる「脱魂式」は、その逆となり、砲塔の部隊マークを消し去ることで魂を抜くというものでした。私は、このような式典があること自体を知りませんでした。

 まず駐屯地グランドにて、74式戦車による最後の訓練展示が行われました。敵を制圧するというシナリオで訓練は進んでいきます。空包射撃も実施され、まだまだ元気な姿を見せてくれました。

 その後、整備格納庫内にて、「脱魂式」となりました。中央に74式戦車が置かれ、相対するように隊員が整列しています。そして連隊長と隊員の代表らによって、戦車前面に書かれた部隊番号、そして砲塔のマークが消されていきました。他の74式戦車部隊とは異なり、第2戦車連隊は存続しますが、これをもって1個中隊が廃止されました。

 これ以降、私は動いている74式戦車を撮影するため、日本各地を回っていきます。2023年9月27日には、あいばの演習場にて、第10戦車大隊による最後の実弾射撃も取材しました。

 74式戦車の乗員のほとんどは、16式機動戦闘車へと乗り換え、新たな任務に就くことになります。日本を取り巻く安全保障環境は年々厳しさを増しており、戦術にマッチした新たな装備が必要であるのは当然です。…そんなことは百も承知ですが、やはり寂しい。

 東西冷戦期の日本を守ってくれた74式戦車に感謝しかありません。そして残り数か月となりましたが、引き続きお別れ行脚を続けていきたいと思います。

脱魂式直前の74式戦車。積雪の上富良野駐屯地で第2戦車連隊として最後の訓練展示①
 脱魂式直前の74式戦車。積雪の上富良野駐屯地で第2戦車連隊として最後の訓練展示②
      脱魂式で砲塔マークを消す隊員代表
        脱魂式で部隊番号を消す連隊長    
        第10戦車大隊の観閲行進①   
         第10戦車大隊の観閲行進②
第10戦車大隊74式戦車最後の公開実弾射撃(饗庭野演習場)
見納めとなった第3戦車大隊74式戦車の観閲行進(千僧駐屯地)
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