過去のオピニオン・エッセイ
エッセイ
私は取材を“旅”だと考えています。ただし、普通の旅ならば、ある程度日にちや時間が読めます。しかし取材となると話は別です。突然の計画変更など不測の事態が度々起こります。過去、私はデンマークに行き、そこからヘリで洋上のNATO艦隊へと向かう予定でしたが、悪天候のため、ヘリが飛ばず、ただの観光で終わったことがあります。
だから、無理な計画をたてないことを信条としております。例えば取材日の前日には必ず現地入りし、取材後も1日、2日は現地に滞在する。これも何らかの要因で訓練が延期した場合に対処するためです。
しかしながら、ギチギチの予定を余儀なくされるケースもあります。直近だと、日米共同統合演習「キーンソード23」で体験しました。同演習は、2022年11月10日から19日までの間行われ、ほぼ毎日、何かしらの訓練公開がありました。ただ、場所は鹿屋や那覇、徳之島など、多岐にわたっており、すべて取材するのはかなりタイトなスケジュールでした。しかし、飛行機やフェリーの時刻表とにらめっこして、「これならば行ける!」と、すべてをまわる覚悟を決めました。副報道官から「全部まわるんですか?」と驚かれましたが、申し込みました。
まずは南西諸島東方沖の「いずも」の取材からスタートです。艦上にて統合幕僚長山﨑幸二陸将と在日米軍司令官リッキー・ラップ中将による記者会見が行われます。
11月14日午前5時、私は鹿屋基地近くのホテルのロビーにいました。ここで広報担当者や他の記者たちと合流の後、自衛隊のバスに乗り、鹿屋基地へと向かうスケジュールです。今度はCH―47JAチヌークに乗り替え、いよいよ「いずも」へ向かいます。詳細な場所は明かせないということで、自分がどこを飛んでいるのかよく分かりません。ただただ眼下に大海原が広がっています。
2時間近く飛んだでしょうか。窓外に米空母「ロナルドレーガン」と「いずも」が見えてきました。我々のチヌークは「いずも」へと着艦。艦内に集められた我々を前に、「いずも」広報係士官は、「大変言いづらいのですが…、両指揮官のヘリが悪天候のためまだ鹿屋を飛び立ってません。そして皆さんの帰りのフライトも無理そうなので、宿泊の準備を進めています」と告げられる。これには各社驚きの声を上げます。放映の時間が決まっているTⅤ局の方々は、顔から血の気が失せていました。当然携帯電話など通じるわけもなく、現状を上司に伝えることすらできません。私もよりによって綿密なスケジュールを立てた時に…と悔やまれます。すべての予定が崩壊してしまうからです。しかしジタバタしても意味がないことを30年近い経験から学びました。
これほど取材陣がどんよりとしている現場は初めてです。取材するものがないだけでなく、帰れなくなったわけですから。「いずも」側は、せっかくだからと艦内見学を企画してくれました。その最中、広報係士官へ「鹿屋からヘリが来る!」との報告が届けられました。各社喜びの声を上げました。
そこから両指揮官の到着、記者会見、そして帰り支度が数分刻みで行われていきます。このタイミングを逃すともう飛べないかもしれないというからです。結局「いずも」を満喫することなく、急かされる様、後にしました。