過去のオピニオン・エッセイ
オピニオン
圧倒的なロシア正規軍に対し、ウクライナ軍が持ちこたえてきた理由の一つは、ドローンの投入とその戦術開発だろう。
地上戦だけではなく、洋上の戦いにおいても、有人の軍艦がほぼ壊滅状態にあったウクライナ海軍がロシア黒海艦隊の三分の一を撃沈し、行動不能にしたの
は、ウクライナ海軍のマグラV5などの無人攻撃艇(USV1)、すなわち、海のドローンによるものが大きいとされる。
もちろん、ロシア軍もドローンを戦場に投入してきた。イランが開発したシャへド136徘徊型自爆ドローンをゲラン2として使用。さらに、ウクライナのドローン攻撃に対抗するために、ロシア軍には、GPS信号が飛行中のドローンに届かないように妨害するPole―21という車輛システムがある他、T―80BVM戦車の一部には、ドローンの操縦電波を遮断するヴォルノレズ・ドローン妨害装置を搭載したものも現れた。
このようなロシア側の電波を使ったドローン妨害に対抗するため、ウクライナ側が使い始めていると言われているのが、スカイノードSと言われるドローン誘導システム。これは、ドローンが妨害電波を浴びる前に、操縦士は目標を特定し、スカイノードSに入力する。そのため、ドローンは操縦士との通信が途切れても『ジャミングバブル』(電波妨害エリア)を通過し、つまり、電波妨害をかわす。そして、スカイノードSの誘導システムでは目標を光学式でロックオンするので「命中率も人間の操縦士より高い」(米Forbes2024/7/10付)とも報じられている。
ウクライナ軍も、当然、ロシア軍のドローンに対する電波妨害を行うので、ロシア軍もドローンの妨害対策を行っていると考えられるが、それは、どのような手段なのだろうか。
2024年3月、ウクライナに捕獲されたロシアのドローンには電波通信装置はなく、その代わりに10.8㎞ほどの光ファイバーケーブルが「中国製の市販品の光トランシーバーとつながっていた」(米Forbes 2024/3/18付)という。電波でドローンをコントロールしなければ、敵の電波妨害でドローンが妨害されることはない。しかし、ドローンの作動範囲は、光ファイバーケーブルの長さに制限されることになる。
当然、ドローンの操縦者は、ケーブルの範囲にいなければならない。そもそも、戦場でドローンを使用するのは、兵員が敵に身を晒さず戦うことにあるはずだが、前線からケーブルの長さの範囲から操縦することになるなら、それが、ドローン操縦者のリスクとなるか、ならないかは興味深いところだ。
ウクライナ軍は、5月25日、公式Xで試験中の複数の種類の地上ドローン(UGV)の映像を公開した。四輪駆動車を共通車体とし、機関銃を搭載したタイプ、地雷を設置するタイプ、それに貨物輸送タイプ等があった。
ロシアの地上ドローン(UGV)で、興味深いのは、8月のARMY2024装備展示会で披露されたMTS―15だろう。1960年代に旧ソ連軍に導入された122ミリ榴弾砲D―30を無人の無限軌道車に搭載したものだ。D―30榴弾砲は、決して新しい兵器とは言えないが、射程は約15㎞。UGV化に伴い、自動装填装置も設置された。そして、最大15トンの積載量で、弾薬等を積載。最高時速12㎞、120㎞移動できるとされている。しかし、遠隔操作範囲は最大500メートルとされ、この操作範囲での操縦者のリスクはどうなるのかも気になるところだ。
ドローンの戦略化では、アメリカ海軍の動きも目立つ。
8月15日、米海軍航空システム・コマンド(NAVAIR)は、米海軍が空母ジョージ・H・W・ブッシュ(CVN77)に最初のMQ―25無人航空戦闘センター(UAWC)の設置を完了したと発表した。米海軍は、空母艦載用の空中給油機として、MQ―25スティングレイ無人給油機を空母に搭載することになっているが、このMQ―25を操縦するのがUAWCである。米海軍は、当面、このUAWCで、無人給油機の操縦を行うが、スティングレイ給油機には、情報収集・監視・偵察(ISR)機能も備わっている。また、将来は、スタンドオフ兵器の搭載も議論されていて、UAWCは、将来の戦闘機などの将来の無人システムもサポートする見込みだ。
米海軍では、保有する空母に順次、UAWCを搭載することになっていて、将来は空母艦載機の60%以上が無人機になるとされる。
ドローンなどの無人兵器は、味方の人員を後方に下げ、隠して、敵に晒さないようにして、人的損害を少しでも減らすことが目的であろうが、敵・味方ともに無人化をすすめれば、無人兵器の操縦者を如何に効率よく封じていくかが肝要になるのだろう。その過程で、少しでも味方の人的損害を減らすという無人兵器の目的はどうなるのか、筆者には興味深いことである。