過去のオピニオン・エッセイ
オピニオン
本年(2023年)3月28日に、北朝鮮の労働新聞は、“樽型”の「火山31型」核弾頭(?)が、10個以上並んでいるところを最高指導者、金正恩総書記が視察している様子を画像で紹介した。北朝鮮は、2017年9月にも、最大直径約75cm、重量は500~750kgと推定され“ひょうたん型”の核弾頭または、その実大模型とおぼしきモノの画像を公開していた。二つの球体の一つは原爆。もう一つが原爆を起爆装置として核融合反応装置とする水爆と推定され、北朝鮮は、この時点で、水爆を保有したと考えられた。しかし、本年、北朝鮮が画像を公開した“樽型”は、推定直径40~50㎝、推定全長約90㎝、重量は、200㎏以下との説もあった。そして、この火山31が、本当の水爆であった場合、その威力は「最大20㏏(キロトン)」で「第二次世界大戦で広島と長崎に投下された核爆弾」に匹敵(韓国中央日報 3/28付)と分析されていた。金正恩総書記の後ろには、「〈火山31〉装着核弾頭」と題した1枚のパネルが掲示されていて、超大型放射砲(KN―25)の誘導弾先端部、無人潜水攻撃艇「ヘイル(津波)―1
」、戦略巡航ミサイル「ファサル(矢)―1」「ファサル(矢)―2」、右上から、戦術誘導弾(KN―24:通称、ATACMSモドキ)、変則軌道可能弾道ミサイル(KN―23)、新型戦術誘導兵器(小型KN―23)、それに、変則軌道可能/潜水艦発射弾道ミサイル(KN―23系列潜水艦発射弾道ミサイル)とされ、それぞれ、どのように「火山31型」核弾頭をはめ込むのか、具体的に図示されていた。つまり、北朝鮮は、この原稿を書いている時点(2023/8/24)で、火山31型について、核実験を実施しておらず、核弾頭として機能するかどうか、実証していないが、これだけの種類の兵器を、火山31型核弾頭を使って、核兵器にしたという意向なのだ。日本として、気掛かりなのは、核兵器化したこれらの兵器が日本に届くかどうかだが、射程800㎞のバージョンもあるとされるKN―23ミサイルは、日本に届く可能性がある。しかも、高度60㎞程度以下で飛ぶので、イージス艦に搭載されたSM―3迎撃ミサイルでは、迎撃が難しい。さらに変則軌道で飛ぶので、迎撃はますます難しい“核ミサイル”となりかねない。そうしたこともあって、日本政府は、米ミサイル防衛局が構想を進めていたGPI迎撃ミサイルの共同開発に参加することを決定したが、北朝鮮が、KN―23に核弾頭を装着するのと、GPIの配備のどちらが早いか、そして、そもそも、KN―23の飛翔高度、機動性に対応できるGPIが開発できるのか。気になるところだ。
低空を飛ぶことで防空網を掻い潜り、北朝鮮が戦略巡航ミサイルと位置付ける「ファサル―1」の射程は約1500㎞、「ファサル―2」は約1800㎞と北朝鮮は主張していて、その通りなら、ほぼ、日本全域に届く「核」ミサイルになりかねない。
さらに、北朝鮮は、ミサイル以外の「核兵器」にも、手を出そうとしている。
それが、巨大化した魚雷のような兵器、水中無人攻撃艇へイルだ。
北朝鮮の発表では、へイル―1は、80~150mの深度で、41時間27分掛けて、楕円や8の字を描くなどして、約600㎞を航行した。
時速に直せば、10.13㎞/時であり、人間のジョギング速度に匹敵し、現代の魚雷の速度が、時速100㎞/時程度のものが珍しくないので、結構、遅い。
しかし、遅ければ、音の発生が抑えられ、機動性も本当だとすると探知は難しくなるだろう。
そして、北朝鮮の発表では、へイル―1以外に、71時間6分、潜行して、楕円形や8の字を描いて、航続距離1000㎞を達成したというヘイル―2がある。航続距離1000㎞というのが、本当なら、日本海側の沿岸地域に届くことになり、時速14.06㎞/時というのも探知を難しくするかもしれない。
これらの兵器が核兵器となるかどうかは、火山31に掛かっているわけだが、日本として、無視できないことだろう。また、推定射程3000㎞以上の火星8型、その発達型とみられる火星12NA型極超音速滑空体(HGV)ミサイルも、核弾頭搭載を前提とするかもしれない。
その一方で、北朝鮮は、前述の通り、韓国を射程とする超大型放射砲(KN―25)、戦術誘導弾(KN―24:通称、ATACMSモドキ)等にも、“火山31核弾頭”を搭載する計画を示している。また、発射試験を繰り返している火星17型、および火星18型大陸間弾道ミサイルは、どちらも推定射程1万5000㎞となる可能性があり、将来、米本土だけでなく、NATO欧州諸国に核弾頭を届かせる可能性がでるかもしれない。
このような状況に対応するためか、本年(2023年)7月、米戦略ミサイル原潜ケンタッキーが、韓国の釜山に入港。韓国の尹大統領が、同艦に搭載されたトライデントⅡD5戦略核ミサイル(射程:12000㎞)の発射筒の蓋の上を歩いている映像が公開され、その戦略核兵器の存在を強調した形となった。いうなれば、“見せつける抑止”だったということだろうか。
そして、火星17型や火星18型の完成時に、射程としうる欧州NATO諸国の中には、英・仏が含まれる
が、この両国は、潜水艦搭載用の戦略核ミサイル保有国であり、すでに配備している。英国の戦略核ミサイルは、射程1万2000㎞とされるトライデントⅡD5であり、仏国は、射程1万㎞レベルのM51。どちらも、物理的に、大西洋やインド洋からでも、北朝鮮を射程にしうる。
北朝鮮がミサイルや核兵器を高性能化すればするほど、北朝鮮に対する“抑止”を向ける国や向けられる“抑止手段”も複雑化するかもしれない。