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オピニオン
ト。日本が議長国を務め、ロシアの侵攻を受けているウクライナのゼレンスキー大統領を招いた。
ロシアの侵攻と戦っているウクライナの状況はどうだろうか。
ウクライナの反転攻勢が近づくと言われる中、ロシアは、5月4日、極超音速空中発射弾道ミサイル、Kmh―M2キンジャールをMiG―31K攻撃機から発射した。
ロシアがキンジャールで狙ったのは、4月にウクライナに引き渡されたばかりのパトリオット地上配型迎撃ミサイル・システムだったと報じられた(CNN 5/14)。
キンジャール・ミサイルについて、プーチン大統領は、2018年の教書演説で「現在だけなく将来のあらゆるミサイル防衛システムを回避し、核弾頭あるいは非核弾頭によって約2000キロ圏内にある標的を破壊する」と豪語していた。キンジャールが搭載可能な核弾頭は、威力がTNT爆薬換算で5~50キロトン(Jane Weapon Systems STRATEGIC 2023―24)。なお、広島に投下された原爆リトルボーイの推定威力は、前述の通り、約15キロトン。そして、キンジャールは、最高速度マッハ2.83とされるMiG―31K攻撃機やTu―22M3爆撃機から投下されると、空中で噴射を開始。マッハ4まで一気に加速し、複雑に機動しマッハ10という極超音速で飛ぶうえ、4枚のX字型の動翼を噴射口の外側に持ち、噴射口の内側には、噴射の向きを調整する4枚のベーンがあって、噴射中だけでなく、噴射終了後も、機動できる。そして、キンジャールの飛翔中の最高高度は30㎞とされ、日米のイージス艦に搭載される弾道ミサイル迎撃用のSM―3迎撃ミサイルが、高度70㎞以上でしか、迎撃実績がなく、米陸軍のTHAAD迎撃ミサイルも迎撃高度が約40~150㎞とされているため、西側のミサイル防衛をかわし、標的に核・非核弾頭による攻撃を仕掛けることを意図したのがキンジャールということになるだろう。
キンジャールは、昨年10~12発、そして、今年3月にもウクライナに発射されていたが、それまで撃墜されたことはなかった。
撃墜されないキンジャールの脅威は、日本にとっても他人事とは言い難い。ロシア極東、カムチャツカ半島のペトロパヴロフスク・カムチャツキーの飛行場に2021年、キンジャール搭載用のMiG―31K攻撃機が配備されるとも報じられていたのである。ペトロパヴロフスク・カムチャツキーと北海道の距離は、約1500㎞とされるので、物理的には、核弾頭搭載可能とされるキンジャール極超音速ミサイルの射程内となりかねない。
しかし、ウクライナで使用されたキンジャールについて、米軍制服組トップのミリー統合参謀本部議長は2022年5月11日の段階で、米下院で「キンジャールの特定のターゲットへのスピードを除いて、これまでのところ、重要な、または、ゲームチェンジャーとなる効果はない」との見解を示していた。このミリー統合参謀本部議長の見解を裏付けるような事態が2023年5月になって起きた。5月7日、ウクライナ軍は、5月4日にロシアが発射したキンジャールを、4月下旬に米、独、オランダから供与されたパトリオットによって首都キーウ近郊で撃墜したと発表。米国防省も追認した。
キーウで公開されたキンジャールの弾頭の残骸らしきモノの前部には、横から何かが衝突、直撃してえぐられてできた、深さ数センチメートルの穴があった。
標的を直撃し、えぐるように破壊するのは、パトリオット地上配備型迎撃システムから発射されるPAC―3ミサイル、または、PAC―3MSEミサイルのHiT―To―Killモードの特徴だ。
キンジャールは、最高速度マッハ10に達したとしても、ミサイル防衛を避けるために機動すれば、速度は落ちる。特に、噴射終了後の機動なら、さらに、速度は落ちるだろう。速度が落ちたキンジャールなら機動性の高いPAC―3、またはPAC―3MSEミサイルの標的になりえたのではないか。キンジャールに内蔵された頑丈な「弾頭」の金属の表皮が避けるほどの衝撃を与えるなら、非核弾頭だけでなく、精密な“機械”である核弾頭も、起爆できるか、疑問だ。
ウクライナ空軍によると、ロシア軍は、5月16日にもMiG―31K攻撃機6機からキンジャール×6発を発射。そのすべてを撃墜した、とウクライナ空軍は発表した。ウクライナにおけるKh―47M2キンジャール・ミサイル迎撃は日本としても注視せざるをえない事態だろう。というのは、航空自衛隊も、パトリオット地上配備型システムを配備し、PAC―3ミサイルやPAC―3MSEミサイルも保有している。しかし、PAC―3ミサイルが防御できるのは2~30kmと限られるため、防衛装備庁は、さらに広い範囲を防御する新たな迎撃システムの構想を進めている。