過去のオピニオン・エッセイ
エッセイ
連載開始当初より、陸海空自衛隊が、海外で行う訓練や活動について書かせて頂いてきました。特に多国間訓練への参加回数は増え、自衛隊は大忙しです。
そんな自衛隊の多国間交流が、次のステップへと進みました。他国軍が来日し、日本で訓練を行うようになったのです。これまでもさまざまな海軍艦艇が日本へと寄港することは多々ありました。最近になり、空軍機も続々と日本へとやって来るようになりました。海空軍間の交流はこれまでもありました。いよいよ他国の陸上部隊が、国内演習場で訓練をすることになったのです。
その一つとして、2021年5月11日から17日に渡り、初の日仏米豪共同訓練「ARC21」が行われ、仏陸軍部隊が初来日しました。
同訓練は、海上訓練と陸上訓練の2つのパートに分かれています。海上訓練の中心となったのが、仏海軍の強襲揚陸艦「トネール」とフリゲイト「シュルクーフ」でした。
仏海軍では、遠洋練習航海「ジャンヌダルク」を実施しています。強襲揚陸艦「ミストラル」級を旗艦とし、1~2隻の随伴艦を率いて、新米士官候補生を対象とした航海です。いくつかのコースがある中、アジア・太平洋方面コースとして、過去日本に寄港したこともあります。そこで、この航海の一環として、日本へと訪問するのに合わせて、「ARC21」を実施する運びとなったのです。そのために、「トネール」には、仏陸軍第6軽機甲師団の兵士たちが乗り込みました。ちなみに、訓練のコードネームである「ARC」は、遠洋航海のコードネームである「Jeanne d'Arc(ジャンヌダルク)」の後ろの部分を取ったものです。
5月11日、相浦駐屯地にて、訓練開始式が行われました。陸上パートには、前述の仏陸軍と、水陸機動団、米海兵隊第3偵察大隊等が参加しました。この日より、相浦駐屯地を中心に訓練が開始されます。14日からは、日仏米豪艦艇が水陸両用戦を含む各種訓練を実施する海上パートも始まりました。
5月15日から17日の間、霧島演習場を敵が侵攻した島と想定し、それを奪還するという「ARC」最大の見せ場となる総合訓練となりました。
私はこの日を心待ちにしていました。しかし、そんな思いと裏腹に、報道公開日となった15日は、台風級の大雨が襲い、時折雷が鳴り響くほどの最悪な天候でした。陸自のCH―47JAチヌークにより日仏米部隊が進出するのが奪還作戦の第一歩でしたが、飛び立つことができず、置いてあるヘリから“ヘリボーン風”に展開することに…。本来なら、チヌークやオスプレイを用いての大迫力の空中機動作戦となる予定だったのに非常に残念です。
そして空港とされた市街地戦闘訓練場を日仏米兵士たちが次々と制圧していきます。仏軍が突入するのを陸自がサポートするという一昔前ならば考えられない内容でした。今や日仏は「自由で開かれたインド太平洋」を守る盟友であり、今後はこうした光景も当たり前のものとなるのでしょう。
こうして、歴史的な訓練はなんとか“無事”終了しました。ただし私は“無事”ではありませんでした。この取材で、私のメインカメラは、修理不能なほどの深刻なダメージを受けてしまいました。涙をぬぐいながら懇願します。2回目の「ARC」は、是非とも太陽が燦燦と輝く中で取材したいです…。