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エッセイ
米英及び有志連合による「不朽の自由」作戦が繰り広げられ、テロ組織アルカイダと繋がる「タリバン」に勝利し、新政府が樹立されたのは2001年12月22日のこと。自由と平和を目指した新国家は、20年でもろくも崩壊してしまいました。
世界各国は、大混乱のアフガニスタンから自国民を避難させることになりました。日本も同様に、日本人や日本大使館で働いていた現地人を退避させるため、8月22日に先遣隊を送り、続いて23日に、C―2輸送機が入間基地(埼玉県)を出発しました。
これを「邦人輸送」と言います。英語表記のTransport of Japanese Nationals Overseasを略し、TJNOと呼びます。ですが、これはあくまで日本独自用語であり、世界では、Non-combatant Evacuation Operationを略してNEOと呼んでいます。直訳すると“非戦闘員避難作戦”となります。
このNEO/TJNOを多国間で演練する場が、毎年タイで行われる「コブラゴールド」です。1982年に、米タイの2か国間軍事演習として開始されました。回を重ねるごとに参加国は増えていき、2005年から日本も参加しています。
私が初めて「コブラゴールド」を取材したのは2016年の事です。米、タイ、韓国、そして日本など8か国が部隊を派遣しました。オブザーバーを含めると、参加国は28か国にもなり、名実ともにアジア最大級の軍事演習となりました。
演習期間は、2月9日から19日まで。その中の17日、NEO/TJNO訓練が行われました。タイ有数のリゾート地パタヤに近いウタパオ空港が訓練の舞台となりました。同パートに参加したのは、日米、タイ、マレーシアの4か国です。これまでは、陸自部隊並びに空自輸送機C―130を派遣し、空路輸送を行ってきました。
今回は、初めて陸自の高機動車を参加させ、陸路における邦人輸送訓練を行いました。さらに海自からは護衛艦「まつゆき」と搭載ヘリが参加しました。海自が同訓練にてNEO/TJNO訓練に参加するのも初めてのことでした。こうした点が非常に興味深く、私は取材を決めたのです。
高機動車等で運ばれてきた在外邦人たちは、ウタパオ空港内の格納庫内に集められました。ここでまず、本物の外務省職員により、パスポートチェックが行われます。
身元が確認されると、空自隊員の手で荷物チェックが行われていきます。今回は、バンコクにある日本人学校に通う中学生約70名が参加しました。ここまで実践的な訓練を行うのかと驚いたものです。
各国も同様に、搭乗前の手続きを粛々と行っていきます。すると、タイ軍は、検査中に拳銃を所持した人を発見し、別室で調べることになりました。さらに急病人が出て、自衛隊とタイ軍が協力して医療テントまで搬送する一幕もありました。訓練は完全ブラインド方式なので、こうした突発事項は、当然ながら訓練実施部隊には知らされていません。
こうして、在外邦人たちは、C―130やSH―60Jに分乗し、空港を飛び立ったところで訓練が終了しました。
この時は迫真の訓練、と思ったものです。しかし、こうして今、アフガニスタンでのカブール空港の混乱を見ると、実は“ぬるい”のかもしれません…。これまでのTJNOを大きく見直す必要がありそうです。