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過去のオピニオン・エッセイ

エッセイ

イラク派遣で出会った海の男たち  軍事フォトジャーナリスト 菊池雅之氏
2021-01-01
防衛協会会報第153号(3.1.1)
 アメリカと有志連合国は、「イラクの自由作戦」として、2003年3月19日イラクを攻撃しました。日本もアメリカを支持する立場から自衛隊をイラクへ派遣することを決め、2003年7月26日、「イラクにおける人道復興支援活動及び安全確保支援活動の実施に関する特別措置法」、通称“イラク特措法”が可決されました。
 これに基づき、同年12月19日、航空自衛隊のC―130がイラクの隣国であるクウェートへと出発。さらに2004年1月9日、陸上自衛隊の先遣隊並びに空自の本隊の派遣が決定。陸自先遣隊は1月17日にクウェートに到着。陸路でイラクへと入国すると、20日、後に活動拠点を設けるサマーワへと到着しました。引き続き、2月8日、イラク復興業務支援群第1次隊がサマーワへと到着しました。
 このイラク復興業務支援群が使用する車両を海上自衛隊の輸送艦「おおすみ」で運ぶことになりました。イラク派遣特措法に基づく派遣部隊ということで、「おおすみ」と護衛にあたる「むらさめ」の2隻は、通称「イラ特部隊」と呼ばれました。室蘭港で約70両を積み込み、2月20日に日本を出発しました。
 3月某日、私はアラブ首長国連邦のフジャイラに寄港した「おおすみ」に乗り込みました。
 灼熱の太陽の下、汗をぬぐいながら取材していると「朝晩は長そでが必要なぐらい冷え込みますから体調管理には気を付けて下さい」と話しかけられました。「湿度は80%を越え、朝の甲板は、まるで雨が降ったように水浸しです」と聞き、このエリアの過酷さを知ります。
  陸自部隊は、飛行機で直接クウェートに入るため、陸自隊員は幹部と陸曹の2名しか乗っていませんでした。「私たちは、毎日バッテリー上がりを防ぐためにエンジンをかけ、車両に異常がないか点検しています」と、説明してくれましたが、これだけの車両をたった2名で管理するのはなかなか大変そうです。「上甲板の車両は海水を被っているので、毎日洗い流したいのが本音ですが、貴重な真水をそのようなことに使うことは出来ません…」と複雑な表情も見せていました。
 この航海では、先んじてメールの送受信ができるようになっていました。「娘が1歳の誕生日を迎えるの
で、『お誕生日おめでとう。一緒に祝ってあげられなくてごめんね』とメールを送りました。読めないでしょうけど(笑)、思いを伝えられたことに満足しています」と話す乗員の笑顔を今でも思い出します。
 3月15日朝、クウェートに到着。「おおすみ」のみ岸壁に横付けされ、第2次隊員たちの出迎えを受けました。車両を降ろす作業は昼過ぎから開始され、たった1時間程度で終了しまし
た。
 撤収準備を行う甲板作業員に「すべて終わりましたね」と話しかけると、「私たちは、帰国して家族が『おかえり!』と言ってくれた時が任務完遂です」と凛とした表情で答えました。彼らには再び長い航海が待っています。これが船乗りの辛さでもあり、醍醐味なのでしょう。
 
                  陸自車両をイラクに輸送する輸送艦「しもきた」
                      緊張感漂う輸送艦「おおすみ」艦橋
                    輸送艦「おおすみ」から陸自車両の陸揚げ             
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