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過去のオピニオン・エッセイ

オピニオン

「綢繆未雨」能勢伸之氏 フジテレビジョン報道局上席解説担当役兼LIVE NEWS it日曜 「日曜安全保障」MC」
2021-07-01
防衛協会会報第155号(3.7.1)掲載
 2021年5月22日、ひと月余り前に70年以上連れ添った夫君のフィリップ殿下を失った、齢95歳の英国女王エリザベス二世は、落下防止用の柵もない吹き曝しのエレベーターに英空軍のF―35Bステルス戦闘機とともに、英国最新鋭の空母クイーン・エリザベスの格納甲板に降り立ち、しっかりとした足取りで迎えた兵士達を激励した。
 空母クイーン・エリザベスは、その日の内に、英海のタイプ45型駆逐艦2隻、タイプ23型フリゲート2隻、それに、米海軍イージス駆逐艦サリバンス、オランダ海軍フリゲート・エヴェルトセンが加わり、さらに、英海軍のアスチュート級原潜、補給艦などを従えて空母打撃群を構成し、インド洋、太平洋を目指して出航した。インド洋から、太平洋に出る途中で、クイーン・エリザベス空母打撃群は、中国が“核心的利益”と主張する南シナ海を通過する。
 英国だけではない。
 5月中旬、九州では、日米豪仏の軍艦、地上部隊も加わり、奪われた島嶼を奪還するという想定の共同訓練を実施。フランスは、強襲揚陸艦「トネール」とフリゲート「シュルクーフ」を遙か、仏本国から参加させたのだ。そして、トネールなどの艦隊は、仏国防省が公表した航路図によると、往復ともに南シナ海を通過することになっていた。
 中国は、なぜ、南シナ海を核心的利益と位置づけるのか。断定は出来ないが、中国が接する東シナ海は遠浅で、南シナ海には、2000m以上の深さの海域があり、戦略弾道ミサイルを搭載した大型の戦略ミサイル原潜を潜ませておくのに向いているようだ。4月下旬、中国の国営メディアは、南シナ海・海南島にある海軍基地を習近平主席が視察。建造されたばかりの軍艦3隻を視察する模様を報じた。その中には戦略弾道ミサイル原子力潜水艦「長征18」があり、習主席が、同艦の甲板に上がった際には、重い扉が開いた戦略核ミサイルの発射口の前に立ち、潜水艦発射弾道ミサイルの存在を強調しているようだった。長征18は、本来、射程7000km
余りのJL―2戦略核弾道ミサイルを搭載する094型戦略ミサイル原潜だが、香港の有力紙(サウスチャイナモーニングポスト)は、公開されたミサイル原子力潜水艦「長征18」は、発展型の094A型であり、将来、米本土も攻撃できる射程10000km以上のJL―3型弾道ミサイルも搭載できると報じた(2021/5/2付)発射試験が繰り返されているJL―3の射程は、12000kmキロメートルとも言われている。
 これだけの射程があれば、物理的には、米国本土の西海岸や北西部に届くことになるが、同時に、パリやロンドンも物理的には射程内になりかねない。
 空母クイーン・エリザベスに搭載された艦載戦闘機は、英空軍8機、米海兵隊10機のF―35KIステルス
戦闘機だが、このほかに、マーリンHM2対潜水艦作戦ヘリコプター4機を搭載。随伴艦のタイプ23も対潜水艦能力を持つ。さらに、随伴するアスチュート級原潜は、海中の他国の潜水艦の動きを掌握するのに適しているだけで無く、搭載する射程1400km以上のトマホーク・ブロックⅣ巡航ミサイルを搭載。地上攻撃能力も高い。
 ウォレス英国防相は、クイーン・エリザベス空母打撃群の南シナ海通過について「中国を挑発するモノではない」と議会で語っていた(4/26)が、中国側が、どのように受け取るかは不詳だ。
 英国や仏国は、どんな意図で、日本を含む東アジアへの軍事的関与を強めているのだろうか。
 前述した中国のJL―3ミサイルが完成し、残存性が高い戦略ミサイル原潜に搭載され、南シナ海の水深2000m以上のエリアに潜伏することになれば、米国だけで無く、英仏にとっても見逃せない事態となるかもしれ
ない。
 そこで、米海軍は、しばしば、南シナ海で、航行の自由作戦を実施して、南シナ海に中国のミサイル原潜の聖域が生まれないようにしているのかもしれません。英・仏も、米海軍同様、航行の自由作戦を継続的に実施するのか。
 そこで、気に掛かるのが、英・仏は、ともに、国連安全保障理事会の5つの常任理事国の2か国であり、いわば合法的に戦略核兵器を保有しています。英国のヴァンガード級ミサイル原潜には、射程12000kmといわれるトライデントⅡD5戦略核ミサイルが搭載されていて、仏海軍のル・トリオンファン級ミサイル原潜には、射程10000kmのM51.2戦略核ミサイルが搭載されている。物理的には、北部大西洋から、中国の大部分が射程内になりそうだ。
 「軍艦はその掲揚する旗の国の主権を象徴する」(国際海洋法裁判所判例、2012年)という考え方に沿うなら、南シナ海を航行する英・仏の軍艦をどこかの国が攻撃すれば、地球の反対側から反撃される、と可能性もあり得ないことではないのかもしれない。 
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