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エッセイ
本物の戦場を疑似体験!? 米本土で行われたCTC訓練 軍事フォトジャーナリスト 菊池雅之氏
2020-04-01
防衛協会会報第150号(2.4.1)掲載
2014年1月13日から2月9日にわたり、初となる「平成25年度米陸軍戦闘訓練センターにおける訓練」が行われました。英語表記は「CTC(Combat Training Center)訓練」です。
ロサンゼルスから車で西へ5時間ほど走った場所にフォート・アーウィンがあります。そこに「National Training Center」、略してNTCが置かれています。ここが訓練の舞台となります。
戦場を本番と位置付けるならば、CTC訓練とは練習試合と言えるかもしれません。ここでは実戦さながらの対抗方式にて訓練をします。もちろん実弾ではなく、交戦訓練装置「マイルズ」を使います。小銃や戦車の主砲などにレーザー送信器を、人員、車両等にはレーザー受光器をそれぞれ取り付けます。引き金を引くと、レーザーが送信され、命中すると、体に取り付けた受信器が反応します。命中した部位により、負傷または死亡をしたかの判定が下ります。日本も「バトラー」という同様の訓練機材を保有しています。
訓練を実施したのは富士学校部隊訓練評価隊の約180名です。これに米陸軍第1軍団第2歩兵師団第3ストライカー旅団戦闘団も加わった日米部隊が敵と戦います。
この部隊は、北富士演習場に所在しており、Fuji Training Centerを略したFTCと呼ばれています。まさに日本版CTCです。
FTCには、陸自唯一のアグレッサー(敵)部隊である評価支援隊が編成されています。訓練部隊は、彼らと「バトラー」を用いた対抗戦を実施し、レベルを評価・分析されます。そこで、米軍が数々の実戦で得た経験をCTC訓練にて学び、FTCにてフィードバックさせることで、日本国内でより本物の戦場に近い訓練ができるようにしたいのです。
日米で大きく違うのが訓練環境です。通称BOXと呼ばれる演習場は、50㎞×50㎞とかなり広大です。中には平地、山岳地、砂漠、さらには大小合わせて20個近い街もあります。街にはちゃんと住民もいます。突然デモを起こしたり、時には友好的に近づいてきたりと、住民たちにはシナリオが与えられています。
私は、1台の民間車両が、米軍の検問所に近づいてくるシーンに立ち会いました。そこで米兵が身分証の提示を求めましたが、まったく応じなかったため、かなり強行的な身体検査を行うシーンを目撃しました。こうした細かい突発事態がいろいろと生起します。
BOX内での私の行動は制限されます。民間人役なのか、本当の民間人なのか、訓練実施部隊を混乱させてしまうため、自由に行動できないのです。ですから夜も部隊と一緒に天幕で寝ることを余儀なくされました。
ある日、自衛隊の車列を撮影しようと先回りして高台に登りました。そこで到着を待っていると、遠方に米軍の車両が見えました。何だろうと、望遠レンズを除くと、車両から降りてきた兵士は私に向けて銃を構えているのが見えました。きっと、自衛隊の車列を攻撃しようとするテロリストに見えたようです。
私にマイルズがついていたら、ここで死亡判定が下されたことでしょう。