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エッセイ
日印実動訓練「ダルマ・ガーディアン」 軍事フォトジャーナリスト 菊池雅之氏
2020-07-01
防衛協会会報第151号(2.7.1)掲載
日本とインドの安全保障上の繋がりが年々深くなっています。そのきっかけとなったのが、2016年8月にケニアで行われたアフリカ開発会議にて、安倍晋三内閣総理大臣が提唱した「自由で開かれたインド太平洋戦略」です。南シナ海やインド洋は何者にも支配されず、自由であり続けなければならない、と各国は改めて認識しました。ここで言う“何者”とはもちろん中国を意味します。特にインドは、スリランカが中国に乗っ取られつつある状況を見せつけられており、黙っているわけにはいきません。
こうして日印は、積極的に防衛交流を図っていくことを決めました。海上自衛隊とインド海軍は訓練等を通じて良好な関係を構築してきました。これに続けとばかりに、2018年9月に行われた「日印防衛相会談及び日印首脳会談」で、陸上自衛隊とインド陸軍も共同訓練を実施する事が決まりました。
これが日印実働訓練「ダルマ・ガーディアン」です。
なんと、陸自がはるばる海を渡り、インドまで部隊を送ることになりました。訓練が行われるのは、ミゾラム州バランテにあるCIJWS( Counter-Insurgency and Jungle Warfare School)です。自衛隊では、「対内乱・ジャングル戦学校」と訳しています。このミゾラム州は、ミャンマーやバングラディシュに挟まれたインドのいわば飛び地のような場所にあります。そう、太平洋戦争当時、旧日本軍が超えられなかったインパールの先になります。そのような場所に日の丸が翻る光景を是非見たかったのですが、第1回目となる2018年9月に行われた「ダルマ・ガーディアン」は残念ながら報道公開されませんでした。
しかし、2019年10月15日から11月5日(移動日含む)に行われた2回目は、報道公開されることが決まり、当然私は現地へと向かいました。第34普通科連隊(日)とドグラ連隊第18大隊(印)が参加しました。
ジャングルの中を日印両隊員がともに行軍する姿は何とも不思議な気分でした。そしてゲリラが潜伏する建物を発見すると、まずはインド部隊が突入していきます。続いて日本部隊がインドの援護を受けながら、各部屋を捜索していきました。最後はゲリラを拘束し、人質を無事解放して訓練は終了した。この様子を視察するため、湯浅悟郎陸上幕僚長もやってきました。防衛省がいかにこの訓練に期待しているかが伝わりました。
インドも日本に対し、精一杯のおもてなしをしてくれました。それは、訓練のシンボルマークにも表れていました。なんとサプライズで日本語の表記が書き加えられていたのです。しかし、よくよく見てみると、「インド日本合同運動ダルマ保護者」と謎のセンテンス…。どうやら「ダルマ・ガーディアン」を直訳したようです。
「心遣いは非常にうれしいが、印刷する前に一言相談してくれれば…」と苦笑いするある自衛官が印象的でした。