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過去のオピニオン・エッセイ

オピニオン

「形成一変」能勢伸之氏 フジテレビジョン報道局上席解説担当役兼LIVE NEWS it日曜「日曜安全保障」MC
2020-04-01
                           防衛協会会報第150号(2.4.1)掲載
 携帯電話を弄っていると現在位置が地図上に示される。乗用車では、目的地までのルートがナビに表示される。全地球航法衛星システム(GNSS)のひとつ、米GPS(全地球測位システム)の成果だが、GPSは元々、米軍用に開発されたものだ。軍用機や艦艇、軍用車両も位置を確認するのにGPSに依存している。
 特に、米軍及び、その同盟国の無人機はGPS無しでは作戦行動そのものが不可能となりかねない。さらに、航空機搭載GPS誘導爆弾「JDAM」、GPS誘導グライダー爆弾「JSOW」等は、GPSの位置データを入力することで、標的を狙える。イージス艦では、垂直発射されるミサイルに発射直前の位置を入力。トマホーク巡航ミサイルや、エクスカリバー155㎜GPS誘導砲弾等々、戦略レベルから戦術レベルまで、GPSに依存する武器システムの枚挙にいとまはない。 
 さらに、米軍が最初のGPS衛星を打ち上げたのは1978年。高度20200㎞の6つの軌道面に4基の周期12時間の衛星が配置され、地表面では、複数の衛星の電波を受信して、位置情報を得る。2020年1月14日現在、GPS衛星は、計31基。その中には、2018年12月23日に、打ち上げられたGPSⅢ衛星があるが、米空軍は「精度3倍、抗ジャミング能力は最大8倍」になったと説明している。
 米軍やその同盟国軍にとって、重要性が増す一方のGPSだが、逆に言えば、GPSシステムが妨害されれば、米軍や、その同盟国軍にとっては厄介な事態となる。近年、目立っているのは、GPS妨害電波というより、GPS信号に成りすました偽データの送付だ。
 例えば、シリアではロシアの航空戦力の拠点、フメイミム基地がある。米テキサス大学の研究グループが纏めたレポート〝Above Us Only Stars〟によれば「フメイミム航空基地から発信されるGPS成り済まし信号は、本物のGPS信号の500倍も強力で、送信装置の近くを飛行する航空機にとっては、これに晒されることは、耳をつんざくようなものであった」という。本当に、これだけ強力ならば、受信デバイスは、成りすまし信号こそ本物のGPS信号と受け取っても不思議ではないだろう。
 では、どうやって、強力な、成りすまし信号が発信されたのか。 上記のレポートによればフメイミム基地では、2015年と2017年に、ロシア製のKRASUKHA―4電子戦システムが展開したとされる。KRASUKHA―4電子戦システムは、「BAZ―6910―022」8輪トラックに搭載される移動式のシステムで150~300㎞離れたAWACSのレーダーや低軌道偵察衛星、地上レーダーを無効にするのが任務だったが、GPSのブロックも可能とされる。
 妨害どころか、成りすまし信号で、事実上、GPS信号が乗っ取られるならば、UAVのみならず、GPSで位置を確認する軍用車両や航空機、GPS誘導ミサイル等を妨害しかねない。
では、妨害電波や乗っ取り信号に対する対策はないのだろうか。例えば、米陸軍が採用したのが、小型の電子追跡デバイス、WARLOCだ。
 WARLOCのセンサーは、兵士の片方のブーツの後ろ、または、足首の部分に靴紐等を使って、固定される。WARLOCは、加速度計、ジャイロスコープ、高速コンピュータを組み合わせた小型の慣性航法システム(INS)で、地下施設や内部の建物や大都市や、妨害電波でGPSが使用できない環境下で、利用者の向き変更や、どれだけ速く、移動したかを検出する。ただ、古い技術である慣性航法は、基本的に、WWという地点から、YYの方向へ、ZZメートル移動した結果、ZZという地点に到達しただろうと〝推測する〟航法である。これを繰り返すと、実際の位置からズレ、不確実になりかねない。このため、複数の兵士が身につけたWARLOCデバイスが、相互に、無線で信号を交換して、WARLOCデバイス間の方向と距離を算出する。発信した電波が他のデバイスから戻ってきた時間を2で割って、光速(約30万㎞/秒)を掛ければ距離が測れるのだ。A、B、C・・・と複数のデバイスが存在するなら、ある瞬間のA=B間、B=C間、C=A間・・・のそれぞれの距離が判れば、デバイス同士の相対的な位置関係が判明する。時間の経過とともに、この計測をニアリアル・タイムで繰り返せば、部隊の個々の兵士の移動と相互の位置関係の変化も計測できる。さらに、個々のWARLOCデバイスの電波は低出力で、短距離の送信であるため、地球規模のGPSと異なり、敵が検出することはほとんど不可能と考えられる。
 WARLOCは、蘇った慣性航法技術(INS)とでも呼べるかもしれないが、GPや日本のみちびき等のGNSSとともに、その動向は民間、軍事を問わず無視できるものではないだろう。
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