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防衛協会会報第146号（31.1.1）掲載

 

　昨年十一月七日、米国の中間選挙の結果が出た。
　今回の選挙ほど、世界が固唾をのんで見守ったことはなかった。結果は、上院は共和党、下院は民主党が勝利した。トランプ大統領の強権指向と、国民を分断して対立を煽るやり方に、多くの人が危惧を感じていた所で有ったので、ちょっとした安堵感がもたらされたように思える。
　トランプ大統領は、自分に反対する者に対して、事実を持って反論するのではなく、むしろ事実でないことを事実と言い、相手の言論を切り捨ててしまう。トランプ批判の急先鋒に立ったＣＮＮテレビに対しては「フェイクニュース」との罵声を浴びせ攻撃している。
トランプ大統領を支援するＦＯＸニュースは別として、ＣＮＮを始め主要メディアがトランプ大統領からの圧力にもかかわらず、事実に基づく報道を貫く姿勢を示したことには敬意を表したい。
　一方で、「フェイクニュース」と言う言葉を聞くと、４５～６年前のことを思い出す。
　当時沖縄返還問題と絡んで、米軍が日本本土に核兵器を持っているのではないかとの疑惑が喧伝されたのである。その頃は野党で有った公明党が、この問題を鋭く追及していた。
　非核三原則の下、核兵器を隠し持つような事は考えられないことなのだが、やれ三沢基地が怪しいとか岩国基地が怪しいとか、更には神奈川県の厚木基地が怪しいという話がマスコミを賑わすようになった。国会で大きな問題となっていったので、その都度問題とされた基地に防衛庁より調査団を派遣したもので有る。
 厚木基地の米軍弾薬庫については、当時既に使用が中止され、外部から誰でも簡単に入れる状況にあった。そこである有力紙の記者の方で、防衛問題の第一人者と言われていた方にこの話をした。すると「それは面白い、調べてみましょう。」と言うこととなった。
　ところが数日後大きな見出しで、「この不気味な厚木基地」というようなニュアンスの記事が掲載されたのである。私はその記者の方に「これはおかしいのではないか。事実と違うことを書いては読者をミスリードすることになる。」と抗議した。ところが「よく読んでくれ。一言も核兵器が有るとは書いていない。」と言うのである。確かによく読めばどこにも核兵器が有るとは書いていない。しかし、世間が騒いでいるこの時期に「この不気味な厚木基地」と書かれれば、何かあると思うのが当然で、逆に今や使用してもいず、自由に入れる施設などとは誰も思わない。新聞社の方針として、政府批判になるように書くべしとの暗黙の指示が有ったのかも知れないが、もしそうだったとすれば悲しい事だ。