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エッセイ
環太平洋合同演習「RIMPAC」 菊池 雅之氏(軍事フォトジャーナリスト)
2019-07-01
防衛協会会報第147号(1.7.1)掲載
日本人にはお馴染みのリゾート地である常夏の楽園・ハワイ。そこを舞台とし、1971年より多国間軍事演習が行われています。それが、環太平洋を意味する「Rim of Pacific」を略した「RIMPAC(リムパック)」です。
東西冷戦当時、ソ連海軍の太平洋進出を阻むことを目的の一つとして、米海軍第3艦隊の呼びかけにより開始されました。第1回目は、アメリカ、オーストラリア、カナダ、ニュージーランド、イギリスの5か国が参加しました。以降、毎年もしくは2年に一度の周期で実施していき、1980年より、2年に一度に固定されます。なお、この年より、海上自衛隊が参加する事となりました。ヘリ搭載型護衛艦「ひえい」とミサイル護衛艦「あまつかぜ」、そして8機のP―2Jが派遣されました。当時は、集団的自衛権の行使につながる違法な演習であると言われていました。
1986年より海自は、8隻の護衛艦、1隻の潜水艦、そして8機のP―3Cを派遣し、米海軍に次ぐ規模へと拡大していきます。
私が「RIMPAC」を初めて取材したのは1996年からでした。その時は、補給艦も加え、参加艦艇は10隻にもなっていました。それ以降は、毎回、必ず取材に通っています。冷戦は終結していましたが、大規模な海戦を含めたシナリオ演習が行われていました。
参加国はどんどんと増えていきます。ロシアの脅威が減じ、その代わりに太平洋に面した国々による多国間海軍交流の場となったのが理由だと思われます。いつからか参加する事に意義がある、“海軍オリンピック”とも言われるようになりました。2012年には、なんとかつての敵であるロシア海軍も参加しました。後にも先にもこの年のみの参加ではありましたが、画期的な事でした。
そして2014年、太平洋の新しい脅威となりつつある中国も遂に参加しました。アメリカは、中国を敢えて呼び込むことで、「RIMPAC」を通じて築き上げてきた、環太平洋安全保障ルールを教え込む作戦に出ました。またインド、さらには太平洋域外であるノルウェーからも艦艇がやってくるなどし、参加国は20か国を超え、世界最大規模の軍事演習となりました。
それに反し、日本は「いせ」と「きりしま」、そして3機のP―3Cと小規模な派遣となりました。海自の任務が増え、艦艇を派遣する余裕がなくなりました。しかしながら、この年より、後に水陸機動団となる西部方面普通科連隊が初参加しております。
このように「RIMPAC」は世界情勢を映し出す鏡のようなものです。私はこれからも通い続ける事でしょう。
…なお、中国は、情報収集艦をひっそりと派遣するなど、他国との強調性を欠く粗相が相次ぎ、2018年より招待されなくなりました…。