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過去のオピニオン・エッセイ

オピニオン

「固着観念」 能勢 伸之氏  フジテレビ報道局解説担当役兼ホウドウキョク「日曜安全保障」MC
2019-07-01
      防衛協会会報147号(1.7.1)掲載
 
 2019年5月4日、韓国軍合同参謀本部は、北朝鮮が、「同日午前9時6分頃、日本海側の元山近辺から、短距離ミサイルを発射」と発表。韓国の聯合ニュースは、北朝鮮のミサイル発射は、2017年の火星15型大陸間弾道ミサイルの発射以来、1年5カ月月ぶりとなると伝えた。ところが、同日午前10時11分、聯合ニュースは、韓国軍が「数発の飛翔体」に修正。「70~200㎞飛行した(後に70~240㎞に修正)」と報じた。翌5日、北朝鮮の労働新聞や朝鮮中央放送等のメディアが、金正恩委員長が「大口径長距離放射砲(多連装ロケット砲)や新型戦術誘導兵器の運用能力などを点検」する「火力打撃訓練」を視察した、と報じた。記事に添付されていた画像には、3種類の兵器が写っていたが、個々の説明はなく、KN―09と呼ばれる300㎜多連装ロケット砲と「主体100」と呼ばれる240㎜多連装ロケット砲、それに、2018年2月のパレードで初めて、公に登場した、短距離弾道ミサイルであった。このミサイルは、ロシアのイスカンデル・システムで使用される9M723、または、9M723―1単距離弾道ミサイルにそっくりであったため、“イスカンデルもどき”とも呼ばれたが、5月5日に北朝鮮がリリースした画像では、18年2月のパレードに出ていたのと、ミサイルはそっくりだったが、移動式発射機が異なっていた。北朝鮮メディアの言う「新型戦術誘導兵器」が、この「イスカンデルもどき」を指していたのなら、北朝鮮もまた「弾道ミサイル」と呼んでいなかったことになる。
 北朝鮮は、もともと、国連安保理決議第2087号「北朝鮮に対し、弾道ミサイル技術を使用したいかなる発射もこれ以上実施しないこと、弾道ミサイル計画に関連するすべての活動を停止することにより決議第1718号(2006年)及び第1874号(2009年)を遵守すること及び、この文脈において、ミサイル発射モラトリアムに係る既存の約束を再度確認することを要求する」等によって「弾道ミサイル技術を使用した発射」の停止や「弾道ミサイル計画に関連するすべての活動停止」が求められていた。ここで、あらためて、気がかりになるのは、「弾道ミサイルとは何か」という定義である。国連には、明文化した弾道ミサイルの定義がない。しかし、INF条約第2章の1、及び、新START条約のプロトコール6.[5]で、「飛翔経路のほとんどで、弾道軌道であるミサイル」と定義されている。つまり、放物線を描いて飛ぶのが弾道ミサイルということだ。しかし、ロシアの9M723、9M723―1短距離弾道ミサイルは、最大射程500㎞、高度80㎞とされているが、これは、弾道軌道(=放物線)で飛ばした場合で、その他に、発射直後に機動して、どちらの方角に向かうか分かりにくくした上で、敵レーダーを掻い潜るように低く、標的の方向に直進。標的の近くで、さらに機動する。この飛び方では、飛距離は比較的短くなるものの、弾道ミサイル防衛を躱す、という。たまたま、5月4日に撮影されたという民間衛星画像を見ると、煙の跡が、発射ポジションからクネクネと伸び、その後、直線状に日本海の方向に延びている。北朝鮮のイスカンデルもどきの初めての発射が、9M723ミサイルのように、ミサイル防衛を躱すような飛び方をしたのなら、とても、放物線軌道とは言えず、上記の条約上の弾道ミサイルの定義に当てはめることは困難と、4日時点の韓国軍は判断したのかもしれない。ポンぺオ米国務長官も、5日の時点では「短距離」との判断は示したが、弾道ミサイルかどうかの判断は示さなかった。ただ、どんな飛翔経路で飛んだにせよ、イスカンデルもどきが、国連安保理決議が禁止する「弾道ミサイル技術を使用した発射」と、米国や韓国が判断しなかったとすれば、別に理由が求められなければならないだろう。北朝鮮は、9日にも、午後4時29分と同49分ごろ、北西部の平安北道・亀城から短距離ミサイルと推定される飛翔体を1発ずつ、東の方向へ発射。推定飛翔距離は、約420㎞と約270㎞、高度は約40㎞で、米国防省は9日、「複数の弾道ミサイル」と分析。岩屋防衛相も「弾道ミサイル」と分析した上で「国連安保理決議違反」とコメントした。9日の発射に「放物線軌道」があったということだろうか。
 だが、今回の5月4日の発射が新START条約やINF条約の「弾道ミサイル」の定義と一致しない飛翔経路であったから、韓国や米国が、なかなか、弾道ミサイルの定義に当て嵌めることに逡巡していたのだとすると、問題はさらに膨らんでいくかもしれない。ロシアは、2019年現在、配備中の大陸間弾道ミサイル、SS―19(=UR―100N)の核弾頭を極超音速滑空体核弾頭に交換するアヴァンガルド計画を進めている。極超音速滑空体弾頭は、ロケットで打ち上げられ、切り離されて、大気圏外に出た後、水平に近い角度に向きを変えて重力で大気圏内に戻り、滑空。進路を変え、ミサイル防衛棒を避けつつ、揚力で再度、大気圏外に出る。これを繰り返し、大気圏の外縁に沿って、標的の近くでダイブ、核攻撃を行う。SS―19は、ICBM(大陸間弾道ミサイル)として、新START条約の対象だが、アヴァンガルド計画に沿って、改修されたミサイルは、弾道(放物線)軌道で飛ぶとは考えにくいので、新START条約の「弾道ミサイルの定義」から外れることにはならないだろうか。弾道ミサイルの定義と実態。新START条約は、2021年の期限を待たずに、大きな難題を抱えたのかもしれない。
 
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