防衛白書・防衛予算等
令和7年度防衛省概算要求 防衛協会会報第168号(6.10.1)掲載
過去最大の8兆5,389億円
防衛省は8月30日、令和7年度防衛予算の概算要求を公表した。防衛力の抜本的強化を掲げた防衛力整備計画(令和5~9年度歳出総額約43兆円)の3年目にあたり、要求額は過去最大となる8兆5389億円を計上。令和6年度当初予算の7兆9496億円から5893億円(7.4%)の増額となっている。
概算要求の重点ポイントは次のとおり。
◆スタンド・オフ防衛能力
・各種スタンド・オフ・ミサイルの整備/衛星コンステレーションの構築
◆領域横断作戦能力(宇宙領域)
・次期防衛通信衛星等の整備/宇宙作戦団(仮称)の整備
◆機動展開能力・国民保護
・民間海上輸送力の活用/各種輸送船舶の取得
◆防衛生産・技術基盤
・次期戦闘機の開発
概算要求の基本的な考え方
防衛省が公表した「令和7年度概算要求の概要」によると、概算要求の基本的な考え方は次のとおり。
〇計画期間内の防衛力抜本的強化実現のため、令和7年度中に着手すべき事業を積み上げるとともに、計画期間中のこれまでの事業の進捗状況や予算の執行状況も踏まえ、歳出予算の要求額を着実に増額
〇令和4年12月に閣議決定された「国家防衛戦略」及び「防衛力整備計画」に基づき、防衛力の抜本的強化に当たって重視する能力の7つの分野について、重点的に推進
〇防衛力を「人」の面から強化するため、処遇面を含む職業としての魅力化や、部隊の高度化、部外力の活用を通じた人的基盤を抜本的に強化し、衛生機能も強化。さらに、いわば防衛力そのものである防衛生産・技術基盤の維持・強化のため、防衛生産基盤強化法に基づく措置を含めた各種の事業を着実に実施するとともに、研究開発や民生の先端技術の積極的活用に向けた取組を推進
〇取得に当たっては、足下の物価高・円安の中、経費の精査に努めるとともに、まとめ買い・長期契約等による装備品の効率的な取得を一層推進
自衛隊の組織編制
◆陸上自衛隊の改編
・補給本部(仮称)への改編
補給統制本部を改編し、各補給処を一元的に運用することで後方支援体制を強化
・後方支援学校(仮称)の新編
武器学校、需品学校、輸送学校を統合し、「後方支援学校(仮称)を新編
◆海上自衛隊の改編
・水上艦隊(仮称)の新編
護衛艦隊、掃海隊群等の水上艦艇部隊を一元的に指揮監督する体制を整備するため、「水上艦隊(仮称)」
を新編(下記に関連記事)
・情報作戦集団(仮称)の新編
認知領域を含む情報戦への対応能力を強化し、迅速な意思決定が可能な態勢を構築するため、情報に関する
諸機能・能力を有する海上自衛隊の部隊を整理・集約し、「情報作戦集団(仮称)」を新編
◆航空自衛隊の改編
・宇宙作戦団(仮称)の新編
航空宇宙自衛隊への改称も見据え、宇宙空間の監視や対処任務を目的として、将官(将補)を指揮官とする
「宇宙作戦団(仮称)」を新編
海上自衛隊 水上艦隊(仮称)を新編
護衛艦隊と掃海隊群を統合
8月30日に公表された防衛省の来年度予算の概算要求に合わせて発表された海自の「水上艦隊(仮称)」の新編に注目する。
今回の海自の改編は、令和4年12月に策定された防衛力整備計画(令和5~9年度)の別表3に基づき、おおむね10年後における水上艦艇部隊(護衛艦部隊、掃海艦艇部隊)を6個群(21個隊)体制とする計画に沿ったものである。
水上艦艇部隊の集約という令和の大改編を行う背景等について、斎藤聡海幕長が質問に答える形で述べた9月3日の記者会見の要旨は次のとおり。
◆改編の背景について
防衛力整備計画の中で、統合運用体制の下、高い迅速性と活動量を求められる部隊運用を持続的に遂行可能な体制を構築するということがうたわれている。この観点から、同じようなビークル(艦艇)を持っているところは集約して効率化を図る。また、重複・バラバラだったりしている訓練指導を集約して効率化を図る。さらには、指揮統制は基本的にはシンプルであった方がやりやすい。
◆基地の所在する地方への影響について
護衛艦の所属は変わって も母基地はそれほど変わらないので、地方経済等への影響は大きく変わることはないと考えている。一方、地方総監が持つビークルがなくなるが、今までもやってきたように、災害派遣などで総監が使いたいときには水上艦隊から差し出し、それを総監が運用するので実際の部隊運用上はそれほど変わらない。
◆部隊編成について
「群」については、今までの4個護衛隊群から3個水上戦群に減るので、4隻のDDHのうち1隻は水陸両用戦機雷戦群への配備を考えている。また、現在4か所(横須賀・佐世保・呉・舞鶴)に置かれている護衛隊群司令部が、3か所に減る水上戦群司令部の設置場所については、現在検討中である。
◆今後の期待するところ
我々の活動は、今後増えることはあっても減ることはないので、常に効率的な部隊運用を目指す必要があり、そういった面ではかなり大きな効果があると思っている。
令和6年度防衛関係予算 防衛協会会報第166号(6.4.1)掲載
防衛力抜本的強化2年目の防衛力整備計画対象経費
歳 出 予 算 7兆7,249億円
新規契約額 9兆3,625億円
◎防衛力強化を着実に実施するため、必要かつ十分な予算を確保
令和6年度の防衛関係予算の基本的な考え方は、「国際社会は戦後最大の試練の時を迎え、既存の秩序は深刻な挑戦を受け、新たな危機の時代に突入している」との基本認識の下、令和4年12月に新たに策定された「国家防衛戦略」及び「防衛力整備計画」に基づき、整備期間内の防衛力抜本的強化実現に向け、令和6年度において必要かつ十分な予算を確保する。
◆歳出ベース
令和5年度に大きく増加した契約額を着実に執行するための予算を確保し、整備計画対象経費として7兆7249億円(対前年度+1兆1248億円、+17.0%)を計上
◆契約ベース
防衛力整備計画5年目の令和9年度に向け、実現までに複数年度を要する装備品取得・研究開発・自衛隊施設整備等の事業に早期に着手できるよう、整備対象経費として9兆3625億円(対前年度+4100億円、+4.6%)を計上【令和5・6年度予算の合計で防衛力整備計画事業費43.5兆円の42%を措置】
人的基盤の強化
人口減少と少子高齢化が急速に進展し、募集対象者の増加が見込めない状況においても、自衛隊の精強性を確保し、防衛力の中核をなす自衛隊員の人材確保を図る観点から、以下に示す各種施策を総合的に推進する。
◇採用の取組強化
・募集能力強化
・貸費学生制度の拡充等
◇予備自衛官等の活用
・制度の抜本的見直し等
◇人材の有効活用
・女性の活躍推進
・自衛官定年年齢引上げ
・再任用自衛官の活用等
◇生活・勤務環境の改善等
・隊舎・宿舎の老朽化対
策等
◇人材の育成
・統合教育の強化
・サイバー等の領域を含
む教育・研究の強化等
◇処遇の向上、再就職支援
◎組織定員の最適化
防衛力整備計画期間内(令和5年~9年)においては、自衛官総定員(24.7万人)を増やさず、既存部隊の見直しや民間委託等の部外力の活用といった各種最適化により必要な人員を確保する。
組織新編の一例として、令和6年度末に当初240 名体制で発足する統合作戦司令部(仮)を左上の図に示す。また、防衛力の抜本的強化が進展するおおむね10年後には、左表の防衛力整備計画の別表3に示すとおり、自衛隊は質・量ともに充実・強化された体制となる見込みであるが、自衛官総定数に変更はない。人員は、統合運用体制強化に必要な定数を各自衛隊から振り替えるとともに、海自・空自の増員所要に対応するために必要な定数を陸自から振り替える。このため、陸自の常備自衛官定数のおおむね2000名を共同の部隊、海自・空自に振り替え、自衛隊の組織定員の最適化を図る。
◎装備品の最適化
戦闘様相を踏まえた装備の廃止・数量減を行うとともに、省人化・無人化装備の導入を加速することにより、有人装備を削減する。
◇無人化・省人化・数量減
・OH―1からUAVに
・旧式DDからFFMに
・UAV取得に伴いP―1取得数の一部見直し
・F―35B搭載に伴いSH―60K取得数の一部見直し
◇旧式装備品の用途廃止
・AH―15、AH―60
・U―125A
・U―36A