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過去のオピニオン・エッセイ

エッセイ

ISEAD18 インドで上陸止めを経験!?  軍事フォトジャーナリスト 菊池雅之
2024-07-01
                            防衛協会会報第167号(6.7.1)掲載
 海自には、ルールを破ったり、トラブルを起こしたりすると、伝統的に灸を据える意味で上陸止めという罰則がありました。文字通り外出を禁じるものです。さすがに今では時代に即さないということで、こうしたペナルティも過去のものとなったようです。

 実は、私もこの上陸止めを経験することになったのです。

 それは、2018年に行われた「平成30年度インド太平洋方面派遣訓練」でのお話。毎年行っている長期派遣訓練であり、Indo-Pacific DeploymentをIPDと略しています。しかし、その時は、まだ定着しておらずIndo-Southeast Asia Deploymentの頭文字を取りISEADとしていました。

 ISEAD18は、「かが」「いなづま」「すずつき」で実施しました。私は、スリランカ・コロンボを10月4日に出港し、シンガポール・チャンギに10月18日入港するまでの区間に、「かが」へと乗艦しました。

その途中でインド・ヴィシャカパトナムに寄りました。入港前日である6日夜、インド入国管理局が、防衛駐在官経由で司令部へと「入国できない」と伝えてきました。私は在日インド大使館にすべての書類を提出し、入国許可を貰い、きちんと取材ビザも取得しており、まったく断られる理由が思い浮かびません。インド海軍の基地内は自由にどうぞ、とのことで、話は通っているみたいです。何か行き違いがあったのでしょう。

食堂では若い海曹士たちが、上陸したらどこへ行こうかと楽しそうに話し合っています。「菊池さんはど

こに遊びに行きますか?」と聞いてきたので、「上陸が許可されませんでした…」と答えると、「えっ、なんか悪い事でもしたのですか」と驚かれました。私は何一つ悪いことしてないのに上陸出来ないのはどう考えても腑に落ちません…。

10月7日、別行動をとっていた「すずつき」を除く2隻は、ヴィシャカパトナムに入港しました。港が小さいため、「かが」は沖留めとなり、「いなづま」のみが基地内へ。目前には、行く事がかなわないきれいな街並みが見えます。

10月8日、現地メディアを対象とした記者会見が基地内で行われるというので、暇を持て余すくらいならと、取材することにしました。天候が悪く、その影響で波が高く、「かが」と岸壁を往復していた交通船に乗り移るのもなかなか大変でした。

間もなく会見スタートというタイミングで、「交通船は、悪天候により運航停止になりました。今晩は「いなづま」に泊まって下さい」と聞かされました。もともと2時間ぐらいで「かが」へと帰ってくる予定だったので、着替えどころか財布もありません。そこで先任海曹室に泣きつくと、タオル、歯ブラシ、石鹸などいろいろと恵んでもらえました。

翌日も天候は回復せず。そればかりか私のすべての荷物を積んだ「かが」は避航のため予定より早く出港してしまいました。予定変更は「いなづま」も。当初10日出港でしたが、一日遅らせることに。結局私は予期せず3泊も「いなづま」で過ごすことになってしまいました。上陸が出来ないので、毎日艦内でボーと過ごしていました。上陸さえできれば、ホテルに宿泊もできたのにと考えると悔しいです。

出港後、ヘリでようやく「かが」へと帰ることが出来ました。ベッドの端に腰を下ろすと、実家に戻ってきたかのような安心感すら抱いている自分がいました。

 私の初の上陸止めは、とんでもないドタバタ劇になってしまいましたが、今となっては良い思い出です。
派遣部隊指揮官の第4護衛 群司令福田達也海将補とインド海軍東部艦隊司令官D・K・TRIPATNI 少将の記者会見の様子
    「いなづま」を訪れた現地メディアの面々
  インドのヴィシャカパトナム港に入港する「いなづま」
日印共同訓練(洋上フェーズ)を実施中の日印艦艇。奥から「かが」、インド海軍コーラ級コルベットP62「キルチ」、シヴァリク級フリゲートF49「サヒャドリ」の順
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