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オピニオン
ウクライナ対ロシアの洋上戦闘である。
ロシア黒海艦隊の満載排水量・540トンのミサイル・コルベットと満載排水量・4012トンの強襲揚陸艦を沈めたのは、ウクライナ海軍のわずか全備重量最大1トンの無人攻撃艇だった。ウクライナ海軍は、公式声明で、ロシア海軍は侵攻当初、大型軍艦、揚陸艦、潜水艦、巡視船、掃海艇を含む約80隻の軍艦を保有していた(INSIDER TODAY 2024/2/8)とみていたが、2月8日までにロシア黒海艦隊の主要艦艇含め25隻を破壊したとウクライナ海軍は主張。また、スタブリディ元NATO欧州連合軍最高司令官(米海軍退役提督)は「ウクライナ軍は、ロシア(黒海)艦隊の3分の1に当たる約20隻の主要軍艦を沈没または大破させた」(ブルームバーグ2024/3/3)と評価していた。つまり、軍艦を持たないウクライナ海軍が、ロシア黒海艦隊の「3分の1近くを壊滅させた」(INSIDER TODAY 2024/2/8)というのである。なかでも、注目されたのが、タランチュルⅢ(TARANTULⅢ)級『イヴァノヴェッツ(IVANNOVETS(954))』やロプチャ(ROPUCHA)級『シーザー・クニコフ(TSESAR KUNIKOC(158))』の撃沈だった。英国防省は、2024年2月25日、「ウクライナは、黒海西部を支配することが可能になった」との評価を公式に表明した。水上艦、潜水艦部隊を持たないウクライナ海軍の主力兵器が、全長5.5メートル、全幅1.5メートル、水上0.5メートルという小型の無人水上艇(USV)マグラ―V5。
マグラ―V5は、各種報道によると、監視、偵察、哨戒、捜索救助、機雷対策、海上防護、戦闘任務など、さまざまな作戦を実行するよう開発されたUSVで、巡航速度:22ノット(40㎞/時)、最高速度:42ノット(80㎞/時)、ペイロードは320㎏(爆発物なら300~320kg搭載可能とも)で、航続距離は約833㎞とされる。可能な限り、軽くするため、マグラ―V5の艇体は、炭素繊維強化プラスチックとエポキシ樹脂で作られているとみられ、その半面、側壁が薄く、比較的弱い衝撃で破損しやすい。マグラ―V5の中央部分には、小さな上部構造があり、その前に赤外線カメラ等を備えた回転装置がある。
そして、通信系統として、空中中継器や衛星通信機能を内蔵しているが、衛星通信系は、ロシアが2023年11月に鹵獲したマグラ―V5を調査したところ、衛星通信系は、Starlinkと、Kymeta衛星通信の二重構造だったという。さらに、民生用のルーター(Teltonika RUT956)も装備し、GPSが搭載されている。マグラ―V5は、最大40km離れた沿岸地帯のモバイルインターネットタワーに接続できるようになっていると言われる。こうした仕組みで、マグラ―V5は、GPSを使用して、指定された沿岸エリアに入り、その後、(いずれかの)モバイルネットワークに接続し、ビデオチャンネルをオンにしてオペレーターによってターゲットに誘導されるというのである。マグラ―による戦果は、例えば、前述のスタブリディ元NATO欧州連合軍最高司令官は「米海軍は、低コストの無人機やミサイルが、空母や駆逐艦を撃破できる時代に適応する必要があるだろう」とした上で、以下のような教訓を学ぶべきだと強調した。「今後を見据えて、ウクライナが米国から提供された衛星情報、長期滞在型ドローンのセンサー群からのデータ、そしてしばしば偽装漁船や民間船で活動する特殊部隊の利用をうまく統合したことを研究すべきである。これは、例えば南シナ海における中国の領土的野心に立ち向かう場合の兆しとなる」(ブルームバーグ2024/3/3)というのである。まるで、中国の領域支配戦略/A2AD(接近拒否・領域拒否)戦略への対策をウクライナ海軍の活動で見つけたと言わんばかりである。
すでに、昨年の時点で「米インド太平洋軍内の新たな作戦構想は、ドローンの大群を使って台湾海峡を『Hellscape(地獄絵図)』に変えることを提案している…そのビジョンを実現するため、米国防総省は、約100海里の台湾海峡周辺の空・海・陸に数千のドローンを同時に発進」「中国が台湾侵攻するには、海峡を越えて水陸両用上陸部隊を輸送する必要がある。港で乗り込んでから軍隊が台湾の海岸で下船するまで、数十、場合によっては数百の大型艦がドローン攻撃にさらされることになる。現代の海軍艦艇には、ドローン、魚雷、対艦ミサイルに対する防御手段が装備されてはいるが、限られている。しかし、『地獄絵図』の概念は、数十、数百のドローン同意攻撃でこのような対策を圧倒する方法を提案している」(米Aviation Week 2023/9/26)