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エッセイ
ASEAN創設50周年記念観艦式 軍事フォトジャーナリスト 菊池雅之氏
2021-07-01
防衛協会会報第155号(3.7.1)
2017年11月20日、タイ中部にあるパタヤにて、「ASEAN創設50周年記念観艦式」が行われました。主催国をタイが務め、ASEAN加盟国やその他招待国など18か国が参加しました。参加艦艇数は、実に37隻にもなりました。
その前日である11月19日、パタヤ有数の高級ホテルである「ディシタニホテル」にて、開会式が行われました。そこには、各国幕僚長級の指揮官が勢ぞろいし、海上幕僚長・村川豊海将(当時)の姿もありました。
ホテルの窓からは、錨泊する各国海軍艦艇が見えます。日本でもお馴染みの観閲艦隊と受閲艦隊が相互にすれ違う「移動式」ではなく、錨泊する受閲艦隊の前を観閲艦隊が通り過ぎる「停泊式」のスタイルで行われます。よって、これが本番と同じ体形となります。
タイ海軍空母「チェクリナルエベト」の巨大な体躯が目を引きます。海上自衛隊からは護衛艦「おおなみ」が参加しました。その隣には中国海軍の駆逐艦「ヂェンヂョウ」が並んでいます。これは、ASEANグループと外国グループという分け方をされたためでした。
さて、今回お話ししたいのは、実は観艦式本番のお話ではありません。
開会式の後、パタヤの海沿いの目抜き通りで、参加国によるパレードが行われることになりました。
各国メディアは、タイ海軍が用意したバスで、ホテルから会場へと向かいます。そこで、バスに乗り込んだところ、突然激しい雨が降り出しました。台風級の風雨となってしまい、バスは動き出せません。なんとか、弱まったタイミングを見計らって出発したものの、車窓からは何も見えません。「これは、中止だな…」と思っていた私に、タイ海軍広報は、「予定通り実施します。雨は多分止むでしょう」と言い放ちました。
そんなこと、全く信じられませんでした。
メイン会場近くの路上でバスは停車しました。しかし、誰も降りる事が出来ないほどの雨が降り続いていました。
しかし、30分も待つと、信じられないことに、雨がやんだのです。会場に向かうと、道路は完全に冠水していました。ひどい場所では、ひざ下ぐらいまで水が溜まっています。「いくら何でもこれではパレードなどできるはずはない」と落ち込む私の耳に、タイ海軍音楽隊の演奏が流れてきました。驚くべきことに、パレードが始まったのです。みな、脛ぐらいまで水につかり、ジャブジャブと音を立てて行進していきます。そこへ、日の丸を振りながら「おおなみ」乗員も登場。みな顔が強張っているのは当然でしょう。
私は、こんな最悪なパレードをはじめて見ました。なお、村川氏がのちに「海幕長時代の印象的な出来事」としてこのパレードのことをある本に書かれているのを読みました。
私にとっても、一生忘れることのできない思い出となりました。