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過去のオピニオン・エッセイ

エッセイ

日米共同訓練「アイアン・フィスト」  軍事フォトジャーナリスト 菊池雅之氏
2021-04-01
                             防衛協会会報第154号(3.4.1)

 日本の島嶼防衛強化に多大なる影響を及ぼした「アイアン・フィスト」という演習をご存じでしょうか?毎年冬に、米カリフォルニア州にあるキャンプ・ペンデルトン及びその周辺の演習場等で行われている日米共同訓練です。

 この訓練は2005年より開始されました。きっかけとなったのが、2002年3月27日、九州・沖縄の防衛警備を担当する西部方面隊に西部方面普通科連隊(以下、西普連)が新編されたことでした。 

 この部隊は南西諸島部の島々を守るため、敵の侵攻の兆しがあれば、先んじて上陸し、防御陣地を構築して、敵の侵攻を阻止します。もし島を強奪されてしまったのならば、奪還します。基本的な戦術は海から陸へと展開する、いわゆる海兵隊のような戦い方をします。

 しかし、日本には水陸両用戦のノウハウがありません。そこで米海兵隊から教えを乞うことになりました。それが「アイアン・フィスト」です。

 最初は、ボート操法や水泳から始まり、米軍の水路潜入課程を受講するなど個人のスキルを磨いていきました。そして小隊規模の戦闘を学び、2011年からは中隊規模で総合訓練を実施するまでに成長をしました。

 西普連はレベルアップを果たし、ますます「アイアン・フィスト」が重要になってきました。そこで、私は、2013年1月15日から2月22日に渡り実施された「アイアン・フィスト13」を取材することにしました。西普連約280名と第13海兵機動展開隊(13MEU)約500名が参加する過去最大の規模となりました。

 注目すべき訓練はいくつも行われましたが、私が衝撃を受けたのは、サンクレメンテ島で行われた統合火力誘導訓練でした。隠密裏に敵のいる島へ、偵察部隊とともに火力誘導員が上陸し、敵を探します。発見すると、爆撃機や艦艇などに敵情報を伝え、攻撃をしてもらいます。彼らの役目はあくまで誘導ですので直接攻撃しません。こうした間接攻撃により、敵を制圧、もしくは後退させると、その間隙を縫って主力部隊が上陸していきます。

 指導したのは、米海兵隊の1stANGLICO(Air Naval Gunfire Liaison Company)です。“アングリコ”と読みます。観測点に展開したアングリコと陸自火力誘導員は、まず迫撃砲小隊に敵の座標を送りました。それをもとに、81迫撃砲を射撃していきます。弾着地からは煙が上がります。今度はその煙を目標に、上空から米海兵隊のAH―1Zや米海軍のMH―60Sが対地攻撃を実施していきます。見事な空地一体攻撃でした。さらにアングリコは、洋上にいるタイコンデロガ級イージス艦「プリンストン」へも敵の位置を伝えました。さすがに艦影は確認できませんでしたが、同艦の5インチ砲による射撃で、海岸線にいくつもの火柱があがり、数秒遅れてドドーンという爆発音が島内に響き渡りました。同じように、陸自誘導員も、英語で米艦へと座標を伝え、実際に射撃を依頼するところまで演練しました。

 着上陸戦にとって、統合火力誘導は基本ではありますが、ようやく自衛隊が追いつきました。「アイアン・フィスト」は陸自を大きく変える訓練であるのは間違いないです。

                  観測点に展開したアングリコと陸自火力誘導員
                   火力誘導員から迫撃砲小隊に敵の座標を伝達
                       艦砲射撃による弾着地からの煙      
                   米海兵隊AH-1Zによる上空からの対地攻撃
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