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過去のオピニオン・エッセイ

オピニオン

革故鼎新 能勢 伸之氏  フジテレビ報道局解説担当役兼ホウドウキョク週刊安全保障MC
2019-01-01
 防衛協会会報145号(31.1.1)掲載
  
 防衛計画の大綱が、2018年12月に策定され、当面の日本の防衛政策は、この新大綱に沿った形で行われることになりますが、新大綱で、重視されたことの一つは、サイバー。一般社会では、物流も金融も、クレジットカード決済も、コンピュータをつないだ通信ネットワークに依存しています。自衛隊も各種の通信網、データリンクに依存しています。こうした通信・データリンクの弱点に漬け込むのがサイバー活動であり、日本にとって脅威となっていますが、別にこれは、勿論、日本だけが抱えた状況ではありません。
 このため、2016年のG7伊勢志摩サミットの首脳宣言では、「我々は、国家及びテロリストを含む非国家主体の双方によるサイバー空間の悪意のある利用に対し、密接な協力の下で、断固とした強固な措置をとる。我々は、国際法がサイバー空間において適用可能であることを再確認する」との一文があり、さらに、このサミットでは「サイバーに関するG7の原則と行動」なる文書が作成され、そこには「我々は、一定の場合には、サイバー活動が国際連合憲章及び国際慣習法にいう武力の行使又は武力攻撃となり得ることを確認する。また、我々は、サイバー空間を通じた武力攻撃に対し、国家が、国際人道法を含む国際法に従い、国際連合憲章第51条において認められている個別的又は集団的自衛の固有の権利を行使し得ることを認識する」と記述されています(外務省「要旨」より)。随分、物々しい表現ですが、サイバー攻撃に対する危機感が伝わってきます。日本は、勿論、G7の一国です。サイバー攻撃を防衛という観点から、どう解釈するのか。このG7サミットを受け、翌年、「サイバー攻撃と自衛権行使との関係については・・・何らかの事態が武力攻撃に当たるか否かは個別具体的な状況を踏まえて判断すべきものであって、武力の行使の三要件を満たす場合に憲法上許される」(稲田防衛相 衆・安保委 2017年4月21日)との見解が打ち出されたものの、一か月余りで「サイバー攻撃のみで武力攻撃と評価することができるかについては・・・国際的にも様々な議論が行われている段階であり、政府としては、今後ともサイバー攻撃をめぐる情勢や国際的な議論を踏まえつつ検討を進め」る、として、「検討中」との見解(稲田防衛相 参 - 外交防衛委員会  2017年5月23日)に代わりました。そして、翌年、さらに、政府の見解は「サイバー攻撃のみでの攻撃で、一概にこれが武力攻撃に当たるかどうか、そういう判断には至らないと思っております」(小野寺防衛相2018年3月22日 衆・安保委)に代わりました。G7伊勢志摩サミットで作られた見解との違いが気になるところでしたが、防衛計画の大綱の策定作業が大詰めを迎えていた2018年11月29日、岩屋防衛相は、衆議院の安全保障委員会で「武力行使の三要件を満たすようなサイバー攻撃があった場合には、憲法上、自衛の措置として武力の行使が許されるわけでございまして、サイバー攻撃…、自衛権行使の要件を満たすような場合は自衛権を発動することができる」との見解を示した。小野寺防衛相(当時2018年3月22日)の答弁と比べると、岩屋防衛相の同年11月29日の答弁は、2017年4月の見解をより明確にしたようにも見え、それだけ日本政府の危機感が8か月余りで深まったことを示しているのかもしれず、興味深い。岩屋防衛相は、それに続けて、日米間で、平成25年に設置された日米サイバー防衛政策ワーキンググループ、CDPWG等、さまざまなレベルの定期協議や、日米共同訓練を行っていることに言及した上で「日米間のサイバー防衛協力も進める」との方針を示すとともに、NATOのサイバー防衛協力センターが作成している指針、タリン・マニュアルについて「これらも研究しながら、一層、サイバーに係る法的基盤についても検討を深めてまいりたい」として、日本が、サイバー攻撃に関する法的基盤を作成にあたっては、タリン・マニュアルを「研究」するとの考え方を示しています。自衛隊のサイバー戦能力が、自衛隊のアセットをサイバー攻撃から守るだけでなく、日本全土をサイバー攻撃から守るだけの能力を目指すのか、いつ頃、持ちうるのか、筆者には見当もつきません。
岩屋防衛相は、自衛隊のサイバー戦能力を視野に入れつつ、米国や米国もメンバーであるNATOと歩調を合わせようとしているのでしょうか。
 日本の有事の際には、日本が「盾」で米国が「鉾」の役割をするとよく言われます。日本が大規模なサイバー攻撃を受け、多数の犠牲者が出ているのに「サイバーだから武力攻撃とまだ、判定できる法的基盤がない・自衛権が発動できない」ということになると、米軍は、いま、日本に大規模なサイバー攻撃を仕掛けているのは「K国」で、タリン・マニュアルやG7文書等に当て嵌めれば、「サイバー空間を通じた武力攻撃」にあたり、「K国」のこの場所を、ミサイル等で物理的に叩けば、日本に甚大な被害を与えているサイバー攻撃も止み、それに続くことが予想される「K国」からのミサイル攻撃による死傷者等の被害も拡大させずに済む、と分析したとしても、日本自身がそのサイバー攻撃を「武力攻撃」と解釈しないなら、安保条約も発動できず、従って、米軍が反撃することは出来ないということになりかねません。
 だから、米国やNATOと歩調を合わせ、日本に「武力行使の三要件」を満たすような大規模なサイバー攻撃があった場合には、アメリカに鉾の役割を果たしてもらうよう「安保条約第5条の発動要件である武力攻撃だ」と言えるように、岩屋防衛相はしたかったのかもしれません。
 
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