一筆防衛論
令和6年
前常任理事 小川 清史 防衛協会会報第168号(6.10.1)掲載
日本の安全保障システムの再構築
国防上の脅威は、植民地化を狙う欧米諸国にも警戒を怠るわけにはいきませんでしたが、19世紀終わりから20世紀はじめにかけて日本にとっての脅威は露と清でした。その際の日本の国防にとってのアキレス腱ともいうべき地域が朝鮮半島でした。露・清に朝鮮半島を支配されることは、日本の喉元に凶器を突きつけられるのと同じでした。
日本は1894年から日清戦争を戦い勝利し、朝鮮は独立し、台湾及び遼東半島を手に入れました。しかし三国干渉(露・独・仏)によって遼東半島を手放すこととなります。その10年後の1904年に日露戦争を戦い、露が租借していた遼東半島及び満州地域の支配権を手に入れます。その後日本は1910年に朝鮮半島を併合し、その翌年の1911年に「関税自主権」が回復されます。
日本にとっての最大の脅威対象2ヶ国を満州地域、朝鮮半島、台湾によってブロックしたこととなります。しかし、第二次世界大戦によって敗戦国となり、上記ブロック構築を代わりに担ったのが米国です。米軍は、日米同盟、日韓同盟、米比同盟によって前方展開しています。台湾とは台湾関係法によって米国は間接的に関与しています。
トランプ大統領は2016年の選挙演説で「ウクライナ支援は米国ではなく欧州の問題だ。独はもっと支援を拡大すべきだ」と述べるなど、米国が常に第一線に立つ仕組みには限界が来ているといえるでしょう。日本は集団的自衛権を行使できる「存立危機事態」を法制定しました。また「戦略3文書」で防衛費を倍増し反撃力を保有することとしました。日清・日露戦争を通じて構築した日本の安全保障システムを再構築する時です。日本は、インド・太平洋地域における秩序構築と維持に極めて重要な責任を有しています。ここが日本国家としての踏ん張りどころではないでしょうか。防衛協会を通じ防衛意識の普及に一層尽力します。
(元陸自西部方面総監)