令和2年度自衛隊記念日記念行事航空観閲式
令和2年11月28日(土)、快晴の秋空の下、航空自衛隊入間基地において、自衛隊最高指揮官の菅義偉首相を観閲官に迎え、航空観閲式が6年ぶりに挙行された。
観閲式・観艦式・航空観閲式が、一年ごとの3自衛隊持ち回り開催となった平成8年に初開催の航空観閲式は、今回で8回目を迎えた。
近年の防衛省・自衛隊を取り巻く状況の変化により、従来通りの航空観閲式の実施は、任務遂行能力に支障を生じかねない状況にあること等に加え、新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止の徹底を図っている状況を踏まえ、航空観閲式は規模を大幅に縮小して実施された。無観客で、陸・海自衛隊の参加は見送られ、恒例の観閲飛行・展示飛行も行われなかった。
陸自特別輸送ヘリ隊(木更津)のEC―225LP特別輸送ヘリで、菅首相は入間基地に当日午前10時前に到着。最初に格納庫内の祭壇で入間基地の殉職隊員33柱の御霊に献花した。この後、車両で格納庫前方の観閲式場に臨場。航空自衛隊儀仗隊の栄誉礼を陪閲者の岸防衛相とともに受けた後、岸防衛相・大西政務官・木原首相補佐官・島田事務次官・芹澤官房長・各幕僚長・執行者を務める中空司令官の森田雄博空将らとともに観閲台に登壇し航空観閲式が開始された。
部隊栄誉礼、国家独唱の後、観閲部隊指揮官を務める中警団司令兼入間基地司令の津曲明一空将補を伴ってオープンカーに乗車、航空自衛隊の4個大隊800名の隊員を巡閲した。観閲台に戻った菅首相は、整列した隊員を前に訓示(左記に全文掲載)。この夏の九州豪雨や昨年の台風19号の被災地における災害派遣で、困難な任務を遂行した自衛隊員の労を労い、尊い人命を全員救助した功績を称えた。
また、前回の東京オリンピック開会式で、ブルーインパルスが世界で初めて上空に五輪を描くことに成功したのは、固定観念や前例にとらわれない挑戦の結果であることを強調し、来年の東京オリンピック・パラリンピック開催に向けての決意も改めて表明した。
さらに、近年の厳しさを増す我が国を取り巻く安全保障環境には、宇宙・サイバー・電磁波といった新たな領域での対応が求められ、それには組織の縦割りを排し、陸・海・空自衛隊の垣根を越えた取り組みが重要とし、新たな任務に果敢に挑戦し、自衛隊を更に進化させていくことを強く要望した。
式典終了後、菅首相は、飛行場地区に展示された航空自衛隊の各種装備品を視察。各展示品の前で、所管の各部隊指揮官からそれぞれ説明を受けた。今年度をもって退役するF4EJ改の操縦席に座った菅首相は、記念撮影に臨んだ。
菅義偉首相訓示(全文)
本日、航空観閲式に臨み、我が国の防衛を担う隊員諸官の真剣なまなざしと、規律正しい姿に接し、自衛隊の最高指揮官たる内閣総理大臣として、大変頼もしく思います。
先ほど、ここ入間にて殉職された隊員に献花を行いました。その中には、21年前の11月に殉職された2名の自衛官が含まれています。お二人は、訓練機のエンジントラブル発生後、住民に被害が及ばないよう、最後の最後まで手を尽くしました。その結果脱出が遅れ、尊い命を犠牲にされました。
「事に臨んでは危険を顧みず、身をもって責務の完遂に努め、もって国民の負託にこたえる。」
自衛官としての崇高な精神を行動で示されたお二人に、改めて、心より深い敬意と哀悼の意を表したいと思います。また、この服務の宣誓を胸に刻んでいる隊員諸官。全国各地で、さらには、ソマリア沖・アデン湾、中東海域など世界各地で、日々、黙々と任務に励む皆さんに心より敬意を表します。そして、隊員諸官を支えてくださっている御家族と関係者の皆様 に、この場を借りて心より感謝を申し上げます。国民の命と平和な暮らしを守ることは、政府に課された最も重大な使命です。私自身、官房長官時代から、いつ発生するか分からない事態に 即座に対応できるよう、危機管理に万全を尽くしてきています。この夏、自衛隊は、西日本を襲った豪雨災害に即応しました。熊本県球磨(くま)村の孤立集落の方々を助けるため、多くの隊員が濁流をものともせず、道なき山々を越えて、集落を一つ一つ回り全員を救助しました。自衛隊でなければできない任務でした。
ここに松田幸祐2曹はいますか。
昨年の台風第19号の河川氾濫で、松田2曹が乗る大型輸送ヘリの任務は、情報収集でした。群馬県館林市の上空で、家の2階に取り残された被災者を発見します。高度の技術が必要な大型輸送ヘリによるホイスト救助は極めてまれであり、クルー7名の内、松田2曹を含む3名が未経験者でした。
「我々のあとには、誰もいない。」
このチームは迷わず救助を決断し、最も若い長久保拓也3曹をワイヤーで降下させ、12名の命を救いました。これは、日頃の訓練と優れたチームワークで、困難な任務を成功へと導いた一つの例です。全国の隊員諸官。国民を守るために働いている諸官を誇りに思います。
自衛隊の本来任務は我が国の防衛です。弾道ミサイル防衛、領空侵犯への対処、日々の警戒監視など、どの任務にも大きな困難を伴います。 任務達成のためには、常に、次に何が必要になるのか、一歩先を考える、そして、ベストを尽くす、このことが不可欠です。指揮官のみならず、隊員一人一人がこの意識を持ち、目の前の小さなことを怠らず、我が国を守り、国民を守るために働き続けることを期待します。
日本を含め世界は、今、新型コロナウイルス感染症との闘いに総力を挙げて取り組んでいます。自衛隊は、その有する知見と能力をいかし、ダイヤモンド・プリンセス号や自衛隊病院などでしっかり対応してきており、引き続き、感染拡大防止のため積極的な活動を期待します。そして、我が国は、来年の夏、人類がウイルスに打ち勝った証として、東京オリンピック・パラリンピックを開催する決意です。遡ること56年前、東京オリンピックの開会式で、上空に五輪を描くという、それまで世界で誰も成し遂げたことのなかった任務に、航空自衛隊が挑戦しました。7名の特別チームは、史上初のミッションを成功させるという強い使命感を共有し、最後の最後まで決して諦めませんでした。そして、綺麗(きれい)な円を描く方法をゼロからつくり出し、開会式当日、上空に五輪を描くことに見事に成功しました。固定観念や前例にとらわれることなく、試行錯誤を重ねた結果、新たな道を切り開くことができたと考えます。
近年、我が国を取り巻く安全保障環境は厳しさを増しており、陸・海・空という従来の領域のみならず、宇宙やサイバー、電磁波といった、新たな領域での対応が求められています。このような状況においては、それぞれの組織のみで対処することはますます困難です。組織の縦割りを排し、陸・海・空自衛隊の垣根を越えて取り組むことが重要です。これまでの知見と経験を最大限に活用し、特別チームのように新たな任務に果敢に挑戦し、自衛隊を更に進化させていくことを強く望みます。
隊員諸官、国の存立を全うし、国民の生命と財産を守り抜くことは、政府の最も重要な責務です。この崇高な任務を担う誇りを胸に、諸官が互いに切磋琢磨し、より一層鍛錬に励み、国民を守るために働くことを期待し、私の訓示とします。
令和2年11月28日
自衛隊最高指揮官
内閣総理大臣 菅 義偉