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オピニオン・エッセイ

オピニオン

「管鮑之交(かんぽうのまじわり)」能勢伸之氏 フジテレビジョン報道局特別解説委員
                          防衛協会会報第169号(7.1.1)掲載
 英国人パイロット、F―35戦闘機を日本艦に着艦させる」と題して報じられたのは、2024年11月の英国の軍事専門誌「UK Defence Journal(2024/11/5付)」だった。この出来事を同誌は「英国のF―35パイロットは最近、日本の海上自衛隊(JMSDF)のプラットフォームに着艦するという歴史的な偉業を成し遂げた。英国のパイロッ、ベイカー中佐が操縦するF―35が日本の艦船に着艦したのはこれが初めてだ。この画期的な着艦は、米パタクセント・リバー統合試験部隊における任務の一環として実施された」という。つまり、改修後の護衛艦「かが」で、将来、航空自衛隊のF―35Bステルス戦闘機を運用する場合に備え、アメリカ海軍の試験部隊による離発艦試験を実施したところ、英軍から派遣された交換パイロットによる「歴史的な偉業」が実施されたというのである。なぜ、こんなことがなされたのか。海上自衛とアメリカ海軍の緊密な関係も興味深いが、アメリカ軍とイギリス軍の関係も興味深いものがある。   

 閑話休題、日本の唯一の同盟国と呼称されるのは、1951年に調印された「日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約」を、1960年に改定して締結した「日本国とアメリカ合衆国の間の相互協力及び安全保障条約」(以下、安保条約)の相手国であるアメリカ合衆国だ。あらためて安保条約をみると、その第5条には「各締約国は、日本国の施政の下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃が、自国の平和及び安全を危うくするものであることを認め、自国の憲法上の規定及び手続に従って、共通の危険に対処するように行動することを宣言する・・云々」とあり、第6条には「日本国の安全に寄与し、並びに極東における国際の平和及び安全の維持に寄与するため、アメリカ合衆国は、その陸軍、空軍及び海軍が日本国において施設及び区域を使用することを許される」と規定されている。しかし、協定に基づいて、日本に展開可能な外国軍は、アメリカ軍だけではない。しばしば、指摘されていることだが、朝鮮戦争後も継続されることになった「朝鮮国連軍」について、「日本国における国際連合の軍隊の地位に関する協定」(略称:国連軍地位協定)があり、日米、および、豪、加、仏、伊、ニュージーランド、フィリピン、南アフリカ、タイ、トルコ、イギリスの十カ国が締約国となっていて、これらの国々の軍隊も日本国内の七か所の米軍施設を使用できる。

 このように、日本に展開している、または、展開しうる外国軍は、米軍だけではないが、これらの軍隊が日本の防衛に加わるのかどうかは、定かではない。

 そうだとすると、日本の安全保障は、やはり、日米安保が基軸ということになるのだろう。

 では、日本有事の際に、日本の防衛に直接、関わる外国軍は、アメリカ軍だけになるのか。

 世界中に展開するアメリカ軍のうち、日本の防衛に直接、関わることになるのは、米本土西海岸からインド東海岸までを責任範囲とし、ハワイに本部を置く統合軍、米インド=太平洋軍(USINDOPACOM)だ。

 米インド太平洋軍の下には、米太平洋陸軍米太平洋海兵隊米太平洋艦隊米太平洋空軍米インド太平洋宇宙軍、それに、在日米軍在韓米軍太平洋特殊作戦司令部などの組織が存在し、極東有事・日本防衛ということになれば、日本にいるアメリカ軍だけでなく、米インド太平洋軍傘下の必要な部隊が作戦に参加する可能性がある。

 ここで、興味深いのは、まず、米太平洋陸軍だ。10万人を超える勢力の司令部は、司令官に大将×1人、副司令官に中将×1人、少将×3人という構成だが、副司令官の1人は、オーストラリア陸軍の現役少将

で、戦略及び計画を担当している。つまり、米太平洋陸軍に派遣されたオーストラリア軍の連絡官ではな

く、米太平洋陸軍の司令部に組み込まれたれっきとした副司令官なのである。

 また、2013年には、オーストラリア海軍のフリゲート、HMASシドニー(FFG03)が、空母ジョージ・ワシントンを中心とする空母打撃群に組み込まれ、米艦隊の1隻として、3か月間、活動した。

 その10年後の2023年、米インド太平洋宇宙軍司令部は、同司令部に「同盟国軍の代表を組み込むことを検討している」(Breaking Defense 2023/3/8付)と報じられていた。

 アメリカ軍が、同盟国の部隊・司令官をインド太平洋軍に組み込むだけでなく、その逆もある。

アメリカ空軍は、2022年から、オーストラリア空軍に兵士を派遣。オーストラリア空軍が、米国より先行して運用しているE―7Aウエッジテール早期警戒管制機の部隊に「組み込んだ」。これは、米空軍

も、現有の空飛ぶレーダーサイト、E―3を、将来、E―7Aに更新する予定であるため、教育・訓練を兼ねた「組み込み」ということになるのだろう。

 こうしてみると、冒頭で紹介したように護衛艦「かが」に英パイロット搭乗のF―35Bが着艦したのだとすれば、豪軍のみならず、米軍の中には、英軍も「組み込まれている」ことを示唆している。

 日米安保条約でいうところのアメリカ軍、特に、日本の防衛にとって要となる米インド太平洋軍は、事実上の多国籍軍となりつつあるのではないだろうか。日本が、米インド太平洋軍とどのような関係を構築するのか。単に連絡将校を送るのか。それとも、将来のことは分からないが、そ以上の関係に踏み込むのか。興味深いところではある。
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