特集:ロシアのウクライナ軍事侵攻
ロシア、ウクライナへ軍事侵攻❕ 防衛協会会報第158号(4.4.1)掲載
露のプーチン大統領が要請によるウクライナ東部への「特別軍事作戦」 の実施について緊急演説 |
2月24日午前5時(日本時間24日正午)頃、露のプーチン大統領は国営メディアを通じて緊急演説を行っ た。その内容は、ウクライナ東部にある二つの共和国【2月21日にプーチン大統領が独立を承認した「ドネ ツク人民共和国」と「ルハンスク人民共和国」】の要請に応え、「友好協力相互援助条約」を履行するとの 名目で、「特別軍事作戦」の実施を決定した旨を発表。この後、露国防省はウクライナに対する露軍の攻撃
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国際社会、強まるロシア包囲網
「返り血」をおそれず制裁強化の日米欧
国連の露非難決議
決議主導の日米欧、棄権で露配慮の中印
説得
露のウクライナ侵攻を受けて開催の、二つの国連主要機関による露に対する非難決議結果は次のとおり。
2月25日の「国連安全保障理事会」では露の反対(拒否権行使)で否決され、3月2日の「国連緊急特別総会」では賛成多数で採択された(下表①参照)。
拘束力のある安保理決議での露による拒否権行使は当初から織り込み済みであった。この露非難の決議案には、日本を含む81か国が共同提案国として名を連ねており、できるだけ多くの加盟国から露非難の声を上げさせることには成功した。残念ながら、中国(常任理事国)、印・UAEは、それぞれ露との深い関係性から棄権に回った。安保理での決議案は否決されたとはいえ、公文書として記録に残り、今後の安保理や国連各機関での審議の際に、判断材料の一つとして貴重な価値を持つ。
また、決議結果に法的拘束力のない「勧告」にとどまる緊急特別総会では、日本を含む96か国が非難決議案の共同提案国となり、国連加盟193か国中、141か国の圧倒的賛成多数で採択された。反対は露・ベラルーシ・北朝鮮・エリトリア・シリアの5か国のみで、いずれも強権的な独裁国家である。棄権した35か国の中には安保理決議同様、中印も名を連ねる。
露の国連憲章を踏みにじる非人道的な軍事侵攻に対し、多くの加盟国が「ノー」の声をあげ、国連の場でも露の孤立が際立った。
緊急総会決議のポイント
◇露のウクライナ侵攻は国連憲章違反。最も強い言葉で遺憾を表明
◇武力行使の即時停止と即時撤退を露に要求
◇露による軍事作戦の宣言を非難
◇親露派支配地域の独立承認の即時撤回を要求
スポーツ界、露完全排除
「スポーツと政治は別」という方針の大転換
国際オリンピック委員会(IOC)は、2月28日に国際競技連盟(IF)などに対し、露と露を支援するベラルーシの選手や役員を主催大会から除外するよう勧告した。これを受け、露とベラルーシは各種国際スポーツ大会から完全に「排除」されてしまった。
従来、IOCをはじめとするスポーツ界は「スポーツと政治は別」を貫いてきた。しかし、露のウクライナに対する非人道的な侵略行為に、スポーツ界からも露を絶対に許さないという強いメッセージが発せられたのである。
周辺国の露離れが加速
米欧は露との経済的な繋がりよりも、露に対抗する集団安全保障を重視
日本を含む米欧各国は、「返り血」をおそれず、経済・金融面での前例のない強力な露制裁で結束し、足並みが揃っている。永世中立国のスイスでさえ、欧州連合(EU)と同様の制裁措置を講じると表明したのは極めて異例だ。
一方、ウクライナに対する支援については、NATO非加盟国のため直接の軍事行動支援には至っていない。しかし、米欧各国からの武器供与をはじめ、日本を含む世界中から金融・生活物資等の支援の輪が、国・個人を問わず広がっている(日本の支援・制裁措置等は下表②参照)。
NATO非加盟国で、中立を保ってきた北欧のフィンランドとスウェーデンもが武器供与を表明した。露の侵攻後、この両国ではNATO加盟「賛成」の世論が初めて過半数を超えた。
露の非人道的な軍事侵略で、米欧各国は露との経済的な繋がりよりも、露に対抗する集団安全保障を重視し軍備強化に踏み出した。
さらに、2月28日にはウクライナのゼレンスキー大統領がEUへの加盟申請書に署名。続いて、3月3日には旧ソ連構成国のモルドバとジョージアもECへの加盟申請書に署名し、露周辺国の露離れが加速した。
ウクライナに学ぶ教訓
①自国領土内での戦いを強いられる「防勢作戦」
ウクライナは、露侵略軍を自国領土内で迎え撃つだけの防勢一方の作戦を強いられている。当然、多くの
民間人が犠牲になり、社会インフラへのダメージも大きく、領土は荒廃する一方である。
日本の掲げる「専守防衛」の有事の姿が、ウクライナの惨状に重なる。
②孤軍奮闘せざるを得ないウクライナの悲劇
露のような大国の侵略に対しては、一国の軍事抵抗だけでは限界があり、大きな犠牲が伴うことをウクラ
イナは如実に物語る。
翻って、我が国に目を向けると、軍事大国の道を突き進む中国に対抗するためには、日米二国間の安全保
障条約だけでは荷が重くなりつつある。日米同盟を基軸にしたより広い集団安全保障体制構築の具現化に向
けた取り組みが急がれる。