一筆防衛論
令和5年
常任理事 金古 真一 防衛協会会報第164号(5.10.1)掲載
身近に迫りくる新たな脅威への備え
自然災害の頻発に伴い、人命や財産の喪失といった直接的な被害に加え、電気、水道、ガス、通信等のライフラインの停止が多発しています。被災した人々にとって、直接的な被害はさることながら、日常生活には欠かせないライフラインの停止や復旧の遅れは深刻です。冷暖房、給湯やトイレと電気と水道への依存度が高い生活を送る我々にとって、地域を問わず、自然災害はより身近な脅威となっています。
一方で、気象警報や物理的な破壊を伴うことなく、ライフラインに加え、金融や医療サービス等の社会インフラ機能を意図的、突発的に停止・破壊させることが可能なのがサイバー攻撃です。しかし、多くの国民には、自然災害と同様の身近な脅威として認識されていないのが現状でしょう。昨年10月に大阪の大規模医療施設の医療サービスが停止、また本年7月には名古屋港ターミナルシステムに障害が発生し、コンテナ物流が停止しました。広域かつ多様な社会インフラが同様の攻撃を受け、復旧に長期間を要した場合、2つの事案、実際にはさらに多くの事案を踏まえれば、我々の生活への影響は計り知れないほど甚大であると想像できます。
昨年11月、サイバーセキュリティー基本法が制定され、14分野の重要インフラ事業者にサイバー攻撃への備えを義務付け、国民生活又は社会経済活動に多大なる影響を及ぼし得る脅威に対して、官民一体となった備えが明確化されました。また、12月に閣議決定された国家安全保障戦略には、能動的サイバー防御の導入、新たな司令塔組織の設置、法制度の整備及び運用の強化を明示されています。
携帯電話大手の通信障害、電子マネー決済システム障害を経験し、多くの人々が既にその影響の大きさを認識されていると思います。サイバー攻撃は、我々の日常生活を脅かす身近な脅威に他なりません。今後、サイバーセキュリティー強化に係る施策が政府主導に進められますが、自然災害と同様、国民一人一人がその脅威を認識する必要があります。その上で、立法府には現実を直視した議論と早急な立法措置等、身近な脅威への迅速な対応を期待して止みません。
(前航空支援集団司令官)