一筆防衛論
令和7年
常任理事 前田 忠男 防衛協会会報第169号(7.1.1)掲載
“新しき 年の初めの 初春の 今日降る雪の
いや重(し)け吉事(よごと)”
新年明けましておめでとうございます。この歌は、ご存じ万葉集最終歌であり寿歌です。文字通りに解釈すればその大意は、「新しい歳の初め、この初春の今日雪が降っている。降り積もる雪のように、めでたいことがいよいよ積み重なって欲しいものだ(本歌の大伴旅人が開いた梅花の宴のように、平和な世界が重ねて続くようにあって欲しいと願うもの)」との新年のお祝いの歌ですが、その背景には作者大伴家持の苦しい・辛い思いが隠されています。(世の中の安寧を祝う一方で、本人は苦しみの中にいたわけですから。)
自衛隊は、周辺国等の「力による現状変更」を許容しない警戒監視活動をはじめ抑止力・対処力の根源となる各種演習の断固たる実施、昨年の能登半島沖地震・豪雨等天変地異の連続ともいえる災害対処、あるいはメディア等であまり報じられなくなった国際協力活動等に愚直に邁進し、この国の平和と繁栄を確かなものにするため、日夜奮闘しています。その一方で、地元の皆さんとの交流の場では、その苦悩を一切表に出すことなく、人々と共に喜び・祝い、安寧を提供しています。自衛隊が最後の砦と言われて久しくなりましたが、若い頃お仕えした陸上幕僚長の「寡黙ではあるが心優しい強い自衛隊」のキャッチフレーズを思い出しました。
地球上の国家の多くが成熟に向かっていると評される中、その安全保障環境は我が国開闢以来最も厳しい局面に、また、災害等は世界規模で悪影響どころかそこに住む人々の生命・財産の存続を危うくするに至っています。自衛隊に目を向ければ、春には、統合作戦司令部も立ち上がり、既に進められている安保関連3文書による法的・予算的充実も約束されておりますが、少子高齢化等による自衛隊の勢力の確保等直面する死活的課題もあり、より強力な各種支援が必要と一国民、OBとして危機感を持っております。新しい年を迎え、かくの寿歌のように、平和で繁栄の続く日本、世界の平和に貢献する日本であることを会員の皆様と共にお祈りしたいと思います。併せて、その礎たる実力集団・自衛隊の発展と円滑な活動を祈念する次第です。
新しい年が会員の皆様、自衛隊の皆さんにとって素晴らしい年になりますように。本年もよろしくお願い申し上げます。
(元陸自総隊司令官)