一筆防衛論
令和7年
常任理事 湯浅 秀毅 防衛協会会報第171号(7.7.1)掲載
トランプ大統領は、1期目にも同様の不満表明があり、当時の安倍総理は強い個人的な信頼関係も使いながら、「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」ビジョンの提唱と地域的及び国際的な課題における日米同盟の重要性を訴えるとともに、日本の防衛費増額や集団的自衛権の限定的な行使を可能とする安全保障関連法による日本の防衛力強化と日米同盟における日本の役割の拡大を訴えることで「日本も同盟のために相応の負担をしている」ということを示し、片務性への不満を和らげようとした。
日本が米国を守るという観点では、日米安全保障条約第5条には「各締約国は、日本国の施政の下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃が、自国の平和及び安全を危うくするものであることを認め、自国の憲法上の規定及び手続に従って共通の危険に対処するように行動することを宣言する。」とあり、日米双方が「日本領土、領海および領空を含む日本国の施政下にある全ての領域」において武力攻撃が発生した場合、共同して対処することを定めている。それ以外の領域においても、平和安全法制の中で制定された自衛隊法第95条の2(合衆国軍隊等の部隊の武器等の防護)によって、自衛隊と連携して我が国の防衛に資する活動に現に従事している米軍等の部隊の武器等を武力攻撃に至らない侵害から防護できることになっており、「我が国の防衛に資する活動である」などの前提や制約はあるものの、法的には米軍を自衛隊が守る枠組みは存在している。実際に、自衛隊法第95条の2に基づく令和6年の防護実績は13件(弾道ミサイルの警戒を含む情報収集・警戒監視活動が4件、共同訓練が9件)であり、2017年の2件を皮切りに以後毎年20件前後、米軍のみで140件の実績がある。(詳細は令和6年版防衛白書資料22参照)
一方、この問題に対しては、日本国内の基地使用の利点を強調する意見もあ
る。確かに日本人の思いとしては十分に理解できる主張だが、湾岸戦争時の日本の対応のように、米国人の心には響かない気もする。
いずれにしても、安倍元総理でさえトランプ大統領の不満を完全には解消できなかった問題であり、かつ、トランプ大統領の発言には、日本に厳しく当たることで、他国とのディールを有利に進めようとの意図があるかもしれないので、一筋縄ではいかないだろうが、ここは石破総理の力量に期待したい。
(元海自自衛艦隊司令官)