防衛時評
令和7年
理事長 島田 和久 防衛協会会報第169号(7.1.1)掲載
令和7年の年頭に考える
令和7年の新春を迎えるに当たり、全国防衛協会連合会の皆様に、謹んで年頭の御挨拶を申し上げます。全国津々浦々で、防衛基盤の維持強化のために多大なる御尽力をいただいておりますことに、心から敬意を表します。
昨年5月の理事会及び総会において皆様のご推挙により金澤前理事長の後任を仰せつかりました。これまでは、皆様から多大なるご支援、ご協力を賜ってまいりましたが、これからは、少しでもご恩返しができるよう全力を尽くしてまいります。よろしくお願い申し上げます。
さて、内外情勢ともに不透明感を増しつつある中、当会が掲げる「自分の国は自分で守ろう」という基本理念を堅持し、その実効性を高めることが益々重要になっていると感じます。日本国民一人ひとりの意識が重要であると同時に、日本の平和と安全を守る最後の砦である自衛隊の一層の強化が不可欠です。しかし、今、その自衛隊は、静かな有事に襲われています。それは自衛隊の担い手不足の顕在化です。
少子高齢化という大きな流れは、自衛隊にも深刻な影響を及ぼしています。法律で認められた自衛官の定員は24万7千人ですが、令和3年度から欠員が増えはじめ、令和4年度には2万人の欠員が生じました。防衛省は欠員を減らすことを目指し、令和5年度には、2万人の募集計画を立てましたが、実際には、半分の1万人しか採用ができず、欠員がさらに4千人増加するという深刻な結果となったのです。抜本的な対策を講じなければ、今後、状況はさらに悪化するおそれがあります。
過去を振り返って見ると、戦後長らく、自衛官の募集は景気に大きく左右されてきました。有効求人倍率と自衛官募集とは、負の相関関係があり、有効求人倍率が上がると自衛官募集は厳しくなる、というはっきりした傾向があったのです。かつてのバブル景気のころは募集の氷河期でもありました。
ところが、平成24年末の安倍政権発足以降は、風向きが変わったように感じられました。有効求人倍率は史上初めて47都道府県のすべてで1を超えるようになりましたが、バブル期のような募集困難には陥らなかったのです。結果的に、このことが、政策担当者の判断を誤らせました。「日本人の防衛に対する認識は変わった」と考え、人的資源への投資が不十分だったのです。私自身、不明を恥じるところです。実際、防衛3文書では、艦艇や航空機などの装備品の稼働率を上げ、弾薬の備蓄を増やし、老朽施設の更新を図るなど、モノへの投資に大きな軸足が置かれていました。しかし、確実に進む少子高齢化は、ここに来て、想像を超える破壊力を見せ始めたのです。
自衛官はやりがいのある素晴らしい仕事であり、生涯をかけるに値するものだと私は確信しています。しかし、生活の糧を得る職業という側面で見た場合、他と比較して、処遇において課題が残されています。それは大別すると、給与と退職年齢の問題です。
給与面については、自衛官は特別職にもかかわらず、長い間、一般職の通常の公務員に準じた給与体系の中に置かれてきました。しかし、自衛官は、「事に臨んでは危険を顧みず、身をもって責務の完遂に務め、もって国民の負託にこたえることを誓います」という服務の宣誓を行い任務に就いています。他の公務員とは異なり、命をかけて国民を守ると誓っている自衛官に対して国家として十分に報いるため、改めて、根本に立ち返って見直しを行う必要があると思います。特別職に相応しい特別な独自の給与体系を構築する時期に来ているものと思います。
また、精強性の確保のため、ほとんどの自衛官は55歳から58歳で定年を迎え、自衛隊を去らなければなりません。人数的に見れば、大半の方が56歳で自衛隊を辞めざるを得ないのです。シニアになってから未経験の仕事へと再就職を強いられることは、人生百年時代と言われる高齢化社会の中にあって、生活の安定を損ね、将来不安の要因となっていることは否定できないものと思います。
政府は関係閣僚会議を設置し、再就職支援の拡充を図る方向だと報じられています。それは是非とも進めて欲しいと思いますが、それだけで良いのでしょうか。再就職は基本的に民間企業への就職であるため、景気に左右されます。相手のある話でもあり、職種や給与など希望が叶うか確実ではありません。詰まるところ、政府のできることは「お願い」をすることにとどまるのです。
他方、一般社会では、「高年齢者雇用安定法」に基づいて、令和7年度から、つまり本年4月から65歳までの雇用確保が義務化されます。雇用主には、65歳まで継続雇用を希望する従業員について「全員雇用」する義務が生ずるのです。さらには、70歳までの就業の確保が努力義務として課されます。会社員や一般の公務員は、年金支給年齢の65歳までは確実に仕事を続け、相応の収入を得る途が保障されるのです。
一案ですが、定年を迎えた自衛官についても、希望する方は全員、65歳まで国が雇用する仕組みを設けるべきではないでしょうか。精強性の確保のため定年延長はできません。既存の自衛官定員の「枠外」で新しい身分を設け、同時に、予備自衛官を兼ねてもらう。そして平素は、長い間に培った知識や技能を生かせる職務についてもらうのです。困難な任務へと自らの意思で進み、長年、国に奉仕し、高度な知識や技能を身につけた方々は国の宝です。その力を、引き続き、発揮していただくのです。
それだけでなく、地本での広報、援護をはじめ、部隊から人を抜いて行っている様々な業務をサポートしてもらうこともできると思います。これにより、現役自衛官で構成される部隊は練度向上に専念することができるようになります。そして緊急時には招集を受け、再び自衛官となって被災者支援や部隊が出動した後の駐屯地警備などに当たってもらえば、防災能力も防衛能力も向上するはずです。
また、自衛隊の装備のメンテナンスは、大部分を企業に依存していますが、有事においては、企業の支援を得ることが難しい場面もあるでしょう。防衛産業と連携し、そのような部分を担ってもらうことができれば、継戦能力の向上につながります。
定年を迎えても、希望者は、国自らが、引き続き、公務内で処遇をする仕組みを設けることは、世の流れに沿っているものと思います。
自衛官の処遇に関して、憲法や学校教育など、根本的な問題の改善のため粘り強い取組みを続ける必要があります。同時に、有意な人材が、安心して長く働ける仕組みを設けることは国の安全を高めるものと思う次第です。今後の検討の一助となれば幸いです。
全国防衛協会連合会は、今後とも、会員の皆様とともに防衛省・自衛隊の活動に対して様々な支援を行ってまいります。今年もよろしくお願いいたします。