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防衛時評

防衛時評

常任理事 得田憲司

防衛協会会報第148号(1.10.1)掲載
 
国を守る国民の力
 
 国の安全保障や国防ということが話題になりますと、とかく外交政策の適否や軍事組織の質・量というテーマに特化しがちですが、本稿では、それらを支えている「国民の思い」と言う点に焦点を当てて話しを進めたいと思います。
 一国の軍隊がここ一番で力を発揮することができる最も大きな要素は、指揮官の戦略・戦術の優劣や兵士が手にする武器の良否も然ることながら、将兵一人一人の心の強弱であると古来より言われております。過酷な環境の中で任務の遂行を求められる自衛隊も同様で、隊員の皆さんの心の強さこそがそれぞれの組織の士気を鼓舞し任務に邁進させる最も重要な要素であることは論を待ちません。そして、隊員さんの心の強さを支えているものこそ、国民の理解支持信頼であると思います。このことは、国際貢献や大規模災害に派遣され過酷な任務に従事した隊員の皆さんの「国民の理解・信頼・支持があったからこそ頑張ってこられた」と言う声がそのことを何よりも雄弁に物語っていると思います。
 この国民の自衛隊に対する理解・支持・信頼こそが、一人一人の国民が国の安全に寄与できる一つ目の力であると思います。
 次に、国民の意識が、その国への侵略を企図している国の軍事的行動を大きく制約するという点に触れたいと思います。国と国との関係は時として激しい対立の中に置かれてしまうことが多々あります。そうした延長線上に、武力により自国の主張を押し通すということが歴史上何度も行われて来ました。そうした時に、侵略を受ける側の国民が一丸となり武力侵攻に対する抵抗意志を表明し続けることにより、侵略を企図している国の為政者に武力による解決を思い止まらせたという事例も歴史を丹念に見てみますと数多く存在しています。すなわち、国民の強い国防意識が大きな抑止力になっているのです。これが、一人一人の国民が国の安全に寄与できる二つ目の力です。
 わが国と近隣諸国の最近の関係を顧みますと、ある政府の為政者が、政治的意図を持って日本の文化や国民の姿を歪曲して宣伝していることは多くの日本人が感じているところです。他方、そうした国の中にも、政府が提供する日本に関する情報はどうもおかしい(意識的に情報操作をされている)と感じている人が数多く出て来ているという報道を最近よく耳にします。一人一人の国民が国の安全に寄与できる三つ目の力がここにあります。すなわち、国民の一人一人がわが国の姿を正しく近隣諸国に発信する発信源になるということです。防衛協会の会員の皆様方の中には、中国、韓国或いはロシアとの間の商業活動や文化交流活動に携わっておられる方も多数おられます。また、ここ数年、わが国を訪れる外国人観光客は増え続けており、昨年は三千万人を超えたと言われております。こうした外国人に正しい日本の姿を理解してもらい、最終的には訪日外国人の多くが真の「親日家」となってもらうことが極めて重要なことと思います。そうした「親日家」が、周辺諸国に多数存在することこそ、わが国を敵視する政権に対する最大の批判勢力になると思います。
 結論的に述べますと、国民一人一人が国の安全に直接寄与できる道はその他にも数多くあると思います。防衛協会の皆様一人一人が、そのことを意識して活動して戴きますことを心から祈念する次第です。
本稿の最後に、国民一人一人が国の安全に直接寄与できることの意義・重要性を広く国民に知って戴き、また、そうした活動を助長するためにも、憲法の中で「国防」の意義を明確にするとともに「自衛隊の地位・役割を憲法上明確に規定」する憲法改正が不可欠と思います。一日も早い憲法改正の実現を祈念しつつ本稿を終わります。
 (元陸自北部方面総監)
 
 

常任理事 武内誠一

防衛協会会報第147号(1.7.1)掲載
 
    募集難に思う
 
 
 昨年度と一昨年度、地方協力本部の大変な努力にも拘らず自衛官候補生の募集は目標の8割であったそうです。安全保障環境が大変厳しい時代において、自衛隊がその任務を遂行するためには人材の確保が必要であることは論を待ちません。採用年齢の引き上げ、あるいは定年年齢の引き上げ等の施策がとられていますが、募集状況の改善には至っておりません。
 これまで、「衣食住が整った環境の中、規律正しい生活を送ることで立派な社会人に成長し、各種資格を取得でき、任期を全うすれば退職金を受け取り、退職者には次の職を紹介し、希望すれば(試験を経て)定年まで勤務できる」、このような点を強調して、若者を自衛官候補生にリクルートしていたと思います。今の時代に応募する側あるいはその親(特に母親)の立場から見て、このような募集条件はどう感じるのでしょうか?いくつか気なる点があります。初任給の安さ、定年までの勤務が約束されていない、自由に行動できない(制約が多い)、転勤がある等。特に、初任給と定年までの勤務が約束されていない点に焦点を当てて気づいたことを述べてみたいと思います。
自衛官募集に当たり、衣食住に経費が掛からないから実質的な賃金は高いとの説明がされますが、応募者(その母親)にとっては額面の多寡が気になって当然です。現状では、自衛官候補生は自衛官候補生手当として、13・35万円(2士に任官すれば16・69万円)、全国平均の警察官(高卒)が17・35万円、消防士(高卒)が15・62万円では、自衛官候補生には魅力がありません。また、住に経費が掛からないとしても、外出の制限が多いことの方が気になる若者が多いと思われ、その制限を許容できる(納得できる)より高い処遇が必要と思われます。防衛省として検討して頂きたいことは、初任給のアップです。初任給をあげるとそれ以降の給与も引き上げることになりますが、幹部の下位に曹の給与が設定されている現在の俸給体系を、幹部と曹士の俸給を別のものとし曹士の給与全般の引き上げにつなげることも併せて検討するよう望みます。
 次に、定年までの勤務についてです。自衛官候補生として採用され定年まで勤務できる曹に昇任できる人は、同期の1~3割程度の現状です。転職の時代とも言われますが、これはIT、データサイエンス等の特別なスキルを持った人達には有利でしょうが、一般的には定年まで勤務できることを希望するようです。そこで、「任期制隊員制度」をなくし全ての隊員を「非任期制」(終身雇用)として採用することを検討して頂きたいと思います。曹への昇任は、士としての勤務状況と試験等により数年の差をつけることが適当かと思います。この際、不適格者をどうするかとの問題がありますが、「分限処分」(勤務実績がよくない、あるいは適格性を欠く場合等に、定められた手続きにより隊員を降任又は免職できる)を厳格に適用することにより対応できると考えます。 また、この制度導入により、高いスキルの隊員を長く保有でき、更には、毎年の募集目標が減少し、任期制隊員の再就職のための援護が不要となり、新隊員教育あるいは部隊でのOJT教育等の所用が大幅に減少することになります。これらのことは、大変重要な波及効果を生みます。多くの人材を募集・援護、教育以外の任務に就けることができ、結果的に第一線の充足率を向上することができます。
 我が国を取り巻く情勢が大変厳しい状況の中、平素の警戒監視等の任務にもより多くの人材が必要であり、南西諸島等に部隊が新編され、艦艇等も増強されており一人でも多くの人材を必要としている状況にあります。予算で許される最大限の人材を確保し、第一線により多くの人材を配置するために、是非とも給与の改善と任期制隊員制度の廃止を検討して頂きたいと切に願う次第です。
(元陸自富士学校長)

常任理事 小川 清史

                          防衛協会会報第146号(31.4.1)掲載
 
       命令について
 
 自衛隊勤務の間「自衛隊の指揮・命令とは何だろう」という問いが、常に私から離れることはありませんでした。福沢諭吉の言葉を借りると「天は、人の上に人を作らず、人の下に人を作らず」のとおり、人は生まれるときには、境遇の違いはあれども、平等に生まれるということです。
 一方、自衛隊では、階級があり指揮官が存在し、部下が存在し、そこは指揮関係で律せらせており、部下は指揮官の命令に従う義務があります。平等な人間同士の間で、命令しなければならないこの組織は一体どういうことだろう。指揮官になったら、本当に部下に命令をしていいのだろうか。小隊長、中隊長、連隊長、師団長等の指揮官として勤務する機会に恵まれましたが、その際には、先ほどの疑問が常に頭の中にありました。
【小隊長勤務の20代】
 松本駐屯地勤務当時、日航機の御巣鷹山墜落事故があり、災害派遣現場で小隊を指揮しました。また、レンジャーの主任教官として要員養成教育にも従事しました。とにかく与えられた任務を遂行するために、いずれも過酷なことを部下に命令してしまった、という思いが今でもあります。
【中隊長勤務の30代】
 伊丹駐屯地勤務当時、阪神淡路大震災が発生し、100日にわたる人命救助活動では、過酷な任務を部下に課したという思いがあります。災害派遣の終了後は、頑張った隊員を休ませたいという思いと、中隊機能を回復させるため、災害派遣期間中に出来なかった各種訓練を早い段階で行わなければならないという思いとが、交錯していました。このときは、士気が高い内に中隊訓練を再開することを優先し、休暇は数カ月かけて交替でとることにしました。
このように、20代から30代は、義務感を優先して命令を出していたことを思い出します。
【連隊長勤務の40代、師団長勤務の50代】
 様々な勤務を経て、また、国の仕組みや機能についての理解も進み、指揮官としてのスキルも向上してきたと思います。そして、その頃には、義務感による命令よりも、妥当で正しい命令を下すべきとの考えに進化していました。
自衛隊においても、民主主義の理念は常に貫徹されています。指揮官といえども、人が人に対して、自由に命令してよいわけではないのです。自衛隊法等、その他訓令等の根拠によって、指揮官は命令する権限を付与されているのです。指揮官の行動の底流には民主主義の理念があり、その理念を土台として権限を与えられて命令することができるのです。それは、人が人に対して命令するという、本来はあまり好ましくないことを、権限を与えられて行うということです。ということは、指揮官は権限に基づき、徹底的に正しい指揮命令をしなければなりません。与えられた指揮命令の権限からはみ出してはならないのです。山本七平氏の述懐によると、旧軍指揮官には私的な命令、例えば「大隊長のタバコを購入してこい」と正式に大隊命令を出した指揮官もいたそうで、これこそ権限外の私的命令です。
また、権限を行使するにあたり、同時に指揮官には責任が発生します。部下が命令を遂行できないような状況になれば、指揮官は責任をもって、部下が任務を遂行できるように環境を整え、成功に導かなければなりません。また、部下に厳しい任務を命ずる以上、それに相応しい態度振る舞いも必要だと思います。(これは正しい命令を出す以上の努力と自己修練を必要とします)
 こうして今振り返ってみますと、軍事組織の指揮官を育成するためには、かなりの年月を必要とします。組織的な教育と自己修練の両方を、車の両輪のごとく推進していく必要があるのです。こうした人材育成も含めて、自衛隊で、命令を出し部隊を動かし、任務を遂行するためには、訓練等の多大な努力が必要です。しかし、こうした運用の下地となる話は表面化し難いかもしれません。世の中に伝わるのはPKOや災害派遣等の各種活動として、表立って見える部分です。
 スポーツでも試合だけで強くなるわけではなく、場合によっては弱くなることもあります。やはり基盤となる練習こそが、強くなるためには必要でしょう。自衛隊も、目に見える活動で成功するためには地道な訓練は欠かせません。
 こうした自衛隊の実情にご理解を頂いております防衛協会の皆様の常日頃の「防衛意識の高揚」と「自衛隊への支援・協力」の御尽力に改めまして深く感謝いたします。今後とも、宜しくお願い致します。
                                  (元西部方面総監)

新春『防衛時評』

副会長兼理事長 金澤 博範

                    防衛協会会報145号(31.1.1)掲載
 
           「年頭にあたって」
 
   中国の公表国防費はこの30年間毎年急速なペースで増加しており、その規模は1989年度から30年間で51倍、2008年度から10年間で2.7倍となっています。これによって中国は核戦力から通常戦力にわたる各般の軍事力の増強近代化に取り組み、今や世界有数の軍事大国に成長しています。
 核戦力及びミサイル戦力については、射程1500㎞の短距離弾道ミサイルから射程13000㎞に及ぶ大陸間弾道ミサイルまでの各種類、各射程のミサイルを保有配備しています。この中には我が国全域を含む東アジア地域を射程とするDF―3A、DF―26といった中距離弾道ミサイルも含まれています。これらミサイルには固体燃料推進方式で車両に搭載され、秘匿性即応性に優れたものも含まれています。
 海上戦力については、国産の近代的な潜水艦、駆逐艦の開発配備を進め、大型の揚陸艦や補給艦の増強を進めています。空母については、「遼寧」が2018年僚艦とともに太平洋に進出し、艦載戦闘機の活動を含む対抗訓練を行いました。「遼寧」はウクライナから輸入したものを改造したものですが、中国は国産空母の開発も進めており1番艦が2017年に進水し2018年に海上試験を実施しました。中国は国産2番艦の開発も進めておりこの空母には、電磁式カタパルトが装備されると言われています。
 航空戦力についても中国は増強近代化に努めており、戦闘機、爆撃機、早期警戒管制機、輸送機など各種多様な軍用機を自国で開発、生産、配備するようになっています。
海空戦力の増強に伴って、その活動も活発化しています。例えば2018年には尖閣諸島周辺の接続水域にフリゲート艦及び潜水艦が入域するなど活動をエスカレートさせています。また、我が国の先島諸島海空域を通過しての海軍艦艇及び軍用機の太平洋への進出も高い頻度で継続しています。
 このような海上戦力及び航空戦力の動向は中国が自国の沿岸防衛、防空のみならず、より遠隔地に戦力を投射する能力の獲得を目指していることを示しています。
また中国は南沙諸島にある7つの場所において、急速かつ大規模な埋め立て活動を強行し、砲台などの軍事施設の整備を行い、軍事拠点化を推進しているほか、西沙諸島においても爆撃機の離発着訓練を行うなど軍事力を背景にした現状変更と既成事実化を行っています。
 中国のこれらの行動は、透明性の不足と相まって、我が国を含む国際社会の安全保障上の強い懸念となっています。  
 北朝鮮は2006年に初めて核実験を実施しこれまで合計6回の核実験を行っています。特に2017年の第6回目の実験は推定される出力が広島原爆の10倍に及ぶもので、北朝鮮はこれを水爆の実験であったと主張しています。また、米ソや英仏の核開発においては、最初の核実験から数年で核兵器の小型化に成功していますから、北朝鮮の最初の核実験から10年以上経過した現在では、北朝鮮が弾道ミサイルに搭載可能な核兵器の小型化を達成している可能性は大いにあると見なければなりません。
 北朝鮮は核開発と並行して弾道ミサイルの開発にも取り組んでおり、2016年以降だけでも40発もの弾道ミサイルを発射しました。そのうち2017年に発射した17発のうち少なくとも3発は射程が5000㎞以上に及ぶICBMであったと見られています。
 金正恩委員長は、2018年の「新年の辞」で南北対話に積極的な姿勢を示し、その後行われた南北首脳会談で非核化への意思を述べました。引き続いて行われた米朝首脳会談では、北朝鮮が朝鮮半島の完全な非核化に向け取り組むことなどにコミットすることなどを表明した上で、引き続き米朝間で交渉を行っていくことが確認されました。金委員長が、朝鮮半島の完全な非核化に向けた意思を文書の形で約束した意義は大きいものです。しかし、現在のところは北朝鮮が多数の弾道ミサイルと核兵器を保有しその運用能力を高めていることに変わりはありません。今後、完全かつ検証可能で不可逆的な方法による北朝鮮の大量破壊兵器及び弾道ミサイルの廃棄が実現するよう国際社会が結束して対応していくことが肝要です。
 最近トランプ政権はINF条約(中距離核戦力全廃条約)の廃棄を表明しました。これは1980年代後半に米ソ間で締結された条約で、地上から発射される射程500~5500㎞の弾道ミサイル及び巡航ミサイルをすべて廃棄するとともにその生産、実験も禁止するものです。その締結の背景には1970年代からソ連が欧州正面に配備した「SS―20 」と呼ばれる射程5000㎞で命中精度に優れた中距離弾道ミサイルの存在がありました。「米国には届かないが欧州には届く」という性質が米国とNATOとの間の拡大抑止の信頼性に大きな疑問を投げかけることとなりました。つまり米本土に届かないソ連のINFで欧州が攻撃された場合、米国は自国本土が攻撃されるリスクを冒してまで欧州の安全保障にコミットしてくれるのかという不安を欧州諸国に抱かせることとなったわけです。この意味でSS―20の配備は米国と欧州諸国とを分断(decoupling)する効果をもちました。
 上述したように中国と北朝鮮の弾道ミサイルの射程内に位置する我が国の置かれた状況は、SS―20が配備された当時の欧州諸国と似た状況にあるとも言えます。中国も北朝鮮もINF条約の締約国ではありませんからこの条約の制限を受けることはありません。INF条約締結に至る歴史的経緯を振り返ると、トランプ政権のINF条約離脱の動向は我が国の安全保障にも将来大きな影響を与える可能性があることに留意しておくことが必要です。
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