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防衛時評

令和5年

常任理事 伊藤俊幸                 防衛協会会報第162号(5.4.1)掲載

先制攻撃について
正しく理解しよう 

 通常国会で立憲民主党の泉代表は「攻撃着手段階での敵基地攻撃は国際法違反の先制攻撃になる」として、反撃能力について反対の立場を表明しましたが、この答弁について考えてみましょう。

「先制攻撃(preemptive strike)」とはなにか

 「武力行使」とは善悪でなく、国際法上「合法」か「非合法」かで判断されます。そして合法な武力行使には「必要性」と「均衡性」が要求され、「先制攻撃」についても、この二要件が満たされているか否かがポイントになります。

①必要性:「差し迫った脅威」があり、これを回避するために「先制攻撃」がどうしても必要であること。

②均衡性:「差し迫った脅威」が生起するまで待つことによる「リスクの増大」と「先制攻撃」とのバランス

     が満たされていること。

 日本の「武力の行使の三要件」とは、第一要件の「必要性」を「明白な危険がある」と「他に適当な手段が

ない」の二要件に分け、第二要件の「均衡性」をバランスではなく「必要最小限度の実力行使」と表現したも

のといってよいでしょう。つまり「反撃能力は武力行使の三要件に基づいて行われる」との国会答弁

は、「国際法上合法である」と説明しているのです。

 また「着手」についても、これは「犯罪構成要件の一部分の実現」をいう法律用語ですから、「攻撃着手段階」とは、「差し迫った脅威」がすでに始まっていることを意味します。つまり「攻撃着手段階での敵基地攻撃」とは「すでに敵の攻撃が開始」されたから「反撃する」のであり、国際法違反ではない「先制自衛攻撃」と、法理論上は整理されているのです。

ただ、北朝鮮や中国のようにTEL(輸送起立発射機)から発射するミサイルの場合、攻撃着手段階での先制自衛攻撃は、現在の軍事技術ではほぼ不可能といってよいでしょう。


「予防攻撃(preventive strike)」とは

 一方「先制攻撃」とよく誤解される「予防攻撃」という別の概念があります。「予防攻撃」とは、「潜在的な脅威」である敵国が、将来戦争を仕掛けてくる可能性があるため、いま攻撃しておかないと軍事的優位を損なう、として行う軍事的行動です。紛争予防のための「非強制的な活動」である「予防外交」は国連も推奨してきた概念ですが、「そこにいるだけで脅威」と一方の当事者が判断して先に軍事的・強制的活動をする「予防攻撃」は国際法違反なのです。

 「先制攻撃」について、国際社会に大きな波紋を呼んだのは、アメリカが9.11後に発表した「予防攻撃

」を包含する「先制攻撃」を認めたような「ブッシュ・ドクトリン」でした。「各国国民は、敵からの攻撃を受けるという差し迫った危機に瀕している場合、合法的な自衛措置を取る前であっても、敵からの攻撃に甘んじる必要はない。(2002年ブッシュ大統領)」

 つまり「テロリストや大量破壊兵器に対しては、先制自衛措置を取る前に予防攻撃してもよい」とアメリカの大統領が宣言し「新軍事ドクトリン」を打ち立てた、と世界中が受け取ったのです。


国連で認められなかったブッシュ・ドクトリン

 ブッシュ・ドクトリンは、「非強制的予防措置の重要性」「アメリカの国益」「先制攻撃の実行可能性」「国際秩序への挑戦」という四つの観点から、国内外から多くの批判を受け、筆者はその様子を在米防衛駐在官として目の当たりにしました。

 その後国連事務総長が、国連安保理常任理事国と日本など16か国の代表で構成する「国連ハイレベル委員会」を設置しました。ブッシュ・ドクトリンについて議論するためです。2004年12月1日に報告された委員会の結論は、以下のとおりでした。

①国家は、「必要性」と「均衡性」がある限りは、軍事行動をとることができる。

②予防的軍事行動は、その行動を権限づけ得る安全保障理事会に委ねるべきである。

 つまり予防攻撃については、アメリカ一国で決めてはならないとして、「ブッシュ・ドクトリン」は国連に

おいて否決されたといってよいのです。

 泉代表がいう「国際法違反の先制攻撃」とは、「ブッシュ・ドクトリン」のことであり、今回日本が採用し

「武力行使の三要件」の範疇で実施する「反撃能力」とは全く別ものなのです。

 (元海自呉地方総監)

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