防衛白書・防衛大綱・予算等
令和6年度防衛省概算要求 防衛協会会報第164号(5.10.1)掲載
過去最大の7兆7,385億円
常設統合司令部(仮称)の創設
防衛省は8月31日、令和6年度防衛予算の概算要求を公表した。防衛力の抜本的強化を掲げた防衛力整備計画(令和5~9年度歳出総額約43兆円)の2年目にあたり、要求額は過去最大となる7兆7385億円を計上。令和5年度当初予算の6兆8219億円から9166億円(13.4%)増と大幅な増額となっており、要求額は各分野で昨年度よりもおおむね増えている。
概算要求の重点ポイントは次のとおり。
◆各種スタンド・オフミサイルの整備【スタンド・オフ防衛能力】
◆イージス・システム搭載艦の整備【統合防空ミサイル防衛能力】
◆全国駐屯地・基地等の既存施設の強靭化【持続性・強靭性(施設の強靭化)】
◆常設統合司令部(仮称)の創設
概算要求の基本的な考え方
防衛省が公表した概算要求資料によると、概算要求の基本的考え方は次のとおり。
〇計画期間内の防衛力抜本的強化実現のため、令和6年度中に着手すべき事業を積み上げるとともに、昨
年度からの事業の進捗状況も踏まえ、歳出予算の要求額を着実に増額
〇令和4年12月に閣議決定された「国家防衛戦略」及び「防衛力整備計画」に基づき、防衛力の抜本的強化に
当たって重視する能力の7つの分野について、重点的に推進
〇防衛力を「人」の面から強化するため、優秀な人材の確保、生活勤務環境・処遇の改善等を通じた人的
基盤強化、衛生機能の強化等を引き続き推進。さらに、いわば防衛力そのものである防衛生産・技術基盤
の維持・強化のため、防衛生産基盤強化法に基づく措置を含めた各種の事業を着実に実施するとともに、研
究開発や民生の先端技術の積極的活用に向けた取組を推進
〇取得に当たっては、足下の物価高・円安の中、経費の精査に努めるとともに、まとめ買い・長期契約等によ
る装備品の効率的な取得を一層推進 (以上抜粋)
常設統合司令部(仮称)の創設について
常設統合司令部(仮称)の創設については、「国家防衛戦略」の中で、基本的な考え方が、次のように示されている。
◇統合運用の実効性を強化するため、既存組織の見直しにより、陸海空自衛隊の一元的な指揮を行い得る常設
の統合司令部を創設する。
さらに、「防衛力整備計画」では速やかな常設の統合司令部(仮称)の創設が次のように示されている。
◇各自衛隊の統合運用の実効性の強化に向けて、平素から有事まであらゆる段階においてシームレスに領域横断
作戦を実現できる体制を構築するため、常設の統合司令部を創設する。この際、我が国を取り巻く安全保障
環境が急速に厳しさを増していることを踏まえ、速やかに当該司令部を創設するとともに、共同の部隊を含
め、各自衛隊のあり方を検討する。
これらを受けて、令和6年度の概算要求では、常設統合司令部(仮称)の創設が重点ポイントの1つとして
取り上げられている。
常設統合司令部(仮称)の創設に当たっては、防衛大臣による指揮やそのあり方、自衛隊内の部隊指揮のあり
方など、必要な機能や効果的な指揮命令系統をどのように確保するかなどの課題解決に向けた検討が進められて
いる。
常設の統合指揮官は陸海空幕僚長と同格の将官
現行の自衛隊の運用体制では、統幕長は「自衛隊の運用に関する軍事専門的観点から大臣の補佐を一元的に行い、自衛隊の運用に関する大臣の指揮は統幕長を通じて行い、自衛隊の運用に関する命令は統幕長が執行する」という、“補佐”と“指揮・命令”の二つの主要な役割を担っている。
東日本大震災では、この両方の役割を担う統幕長に負担が過度に集中していたという反省なども踏まえ、統合司令部設置に向けた検討が進められてきた。
現職の吉田圭秀統幕長も8月31日の定例記者会見において、常設の統合司令部創設の事業要求について「我が国を取り巻く安全保障環境が急速に厳しさ、複雑さを増している中、平素から有事までのあらゆる段階において、領域横断作戦を遂行し、陸・海・空自衛隊部隊の一元的な指揮を実施するため」と、その必要性を述べている。
自衛官トップの統幕長は、統合司令部創設後も引き続き自衛隊の運用に関し、軍事専門的観点から一元的に防衛大臣を補佐し、防衛大臣の命令を統合指揮官に着実に執行させる役割を担う。
自衛隊の実動部隊(陸上総隊・自衛艦隊・航空総隊等)を指揮する権限が集中する統合指揮官は、その職責の重さから陸海空自衛隊トップの各幕僚長と同格の将官が務める。
統合司令部は令和6年度に市ヶ谷(防衛省の敷地内)に設置され、人員は当初240人態勢で発足する。
現在、米軍とは統幕長が戦略面で統合参謀本部議長と、共同作戦面で米統合軍のインド太平洋軍司令官と一人二役でカウンターパートとなっている。今後は統合指揮官がインド太平洋軍司令官のカウンターパートととなり、より一層の緊密な連携が図られていくこととなる。